Crypto Life

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激務鬱から生還するための方法論

今年の1月ころから激務続きで鬱になりかけた。
正確に言うと病院で診断を受けていたわけではないので、本当に鬱かどうかは定かではないが、客観的に思考・行動を分析すると危ない状態だったと思う。

  • 突然奇声を発する
  • 消えてしまいたいと感じる
  • 好きだった読書も手がつかない

最近プロジェクトオフで1週間の休みを活用したことで何とか復活できたと思うが、復活の過程は”偶然”が重なったと感じているので、今後のために方法論としてサマリーし直して備忘録として残しておこうと思う。

復活に向けたアクション① とにかく生存

まずはとにかく生存に向けたアクションをとる。
具体的には寝る。少なくとも8時間、というか寝たいだけ寝る。

実際に1~2日寝たことで全く回復はしていないものの、②の体力回復のためのアクションをとれる程度には回復した。

復活に向けたアクション② 体力の回復

激務疲れしているときは精神的に疲れているのはもちろんだが、実は体力の低下が著しい場合が多い。
基本的には、体力が落ちると思考体力も落ちるため、思考体力だけを上げようと思ってもなかなか上がらない。
そのため、まずは体力の早期回復が目標となる。

自分に合った方法は人それぞれだと思うが、自分の場合はランニング(短距離)×2本→登山→ランニング(長距離)と有酸素系の運動を強度を徐々に上げて行うことが有効だった。
短距離のランニングで少し体力を回復させたうえで登山に行くことで、一気に肺活と足腰の筋肉を回復させる。
そうすると、その後のランニングはそれほど苦しくなく走ることができるので、運動習慣の定着が容易になった。

復活に向けたアクション③ 良い行動の習慣化

"良い行動"は抽象的であるが、自分の場合は"読書"のことをさしている。
鬱に入りかけの時期はどれだけ疲れていても読めていた本が全く読めなくなりかなりショックであった。

体力回復により精神的な余裕がでてくるので、このころになると自然と本が読めるようになる。
あとは、日々の習慣に再び落とし込めば元の状態に戻るので、カフェにでも行って気楽に苦にならない程度に本を読む。

そもそもこんな状態に陥らないために

ここまで鬱手前からの回復方法をまとめたが、そもそもここまでの状態に陥らないことがよいことは言うまでもない。
結局、「①寝る」「②有酸素運動する」を続けることが重要だと思うので、平日は無理でも土日に回復行動をとるように心がけようと思う。

企業によるブロックチェーン活用の必要条件を考える - 航空業界の事例をもとに -

KLMに続きエアカナダが、スイスのブロックチェーンスタートアップである「Winding Tree」との提携を発表しました。
jp.cointelegraph.com


実際のビジネスシーンでブロックチェーンを利用する理由はまだまだ明確ではなく、話題作りという側面が否めない事例も数多くあります。しかし、今回の航空会社におけるブロックチェーン活用は、珍しくブロックチェーンの利点をうまく利用したものであり、今後のユースケースの一つになりえます (*)。


ただ、今回の事例を理解するためには、航空業界の力関係を知る必要があるため、まずは航空業界の現状について簡単にまとめ、Winding Tree及び提携先の航空会社が意図している戦略をまとめます。その後、本事例をふまえて、ブロックチェーンを企業が利用するにあたって、考慮すべきポイントを考えてみます。


(*) 本ブログは公開情報をベースに記載しているため、実態は役に立たないシステムということは十分にあり得ます。

航空業界における「GDS」の存在感

航空業界では伝統的に航空券のサプライヤーであるGDS (Global Distribution System)とよばれる業者が強いパワーを持ってきました。GDSは航空会社と旅行業者をシステムで接続し、旅行業者が航空券を発注にあたり、他の航空会社との比較、発注、発券機能を提供しています。

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例えば、ExpediaはアマデウスのGDSを利用している


しかし、GDSを利用して発券された航空券はGDS使用料が追加で請求されるため、航空会社からの直接発券に比べて割高であり、航空会社はできるだけGDSを利用しない方策を検討してきました。
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【NDC入門】第2回:航空券情報に「規格」導入、GDSとはどう違う? | 旅行業界 最新情報 トラベルビジョン


1つの施策として、2012年に航空会社の業界団体であるIATAが、新通信規格としてNDC (New Distribution Capability)を制定します。NDCは航空会社と旅行業者との接続形式を独自に定めたものです。従来のGDSは利用できる情報が限定的であり、航空会社の企業努力による各種サービスの差異などを旅行会社に訴求することが難しくなっていました。結果として、航空業界は価格競争に陥りがちになっていたのです。


GDSを利用せずにNDC規格の通信を旅行業者と直接行うことで、IATAは航空会社の利益確保を試みたのでした。航空会社側もNDCの利用には積極的であり、例えばNDCを利用する旅行業者に対してコミッションを支払ったり、逆にGDS利用に上乗せ利用料を課すなどしてきました。
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NDCの問題点

しかし、NDCには1点問題点がありました。上の図を見てもわかる通り、航空会社と旅行業者は1:1で接続する必要があるのです。


これまでGDSは複数の航空会社の情報を一つに束ねることで、複数航空会社の比較を簡単に実現する機能を旅行業者に提供してきました。しかし、NDCの場合は、航空会社と旅行業者で1:1の接続になるため、航空会社間の比較などが簡単にできないだけでなく、システム開発コストや複数会社に対応するためのオペレーションコストが旅行会社側で増大してしまうため、NDCの利用はなかなか進みませんでした。


このような状況で、複数の航空会社をNDC規格で束ねるアグリゲーターが登場してきます。やってる内容はGDSと同じなので、将来的にはこのアグリゲーターたちに利益が流れてしまうのは目に見えています。

Winding Treeのもたらす価値

Winding Treeは航空会社、旅行業者にGDSとしての情報集約機能を提供しつつ、分散型のプラットフォームを利用することで、従来GDSに流れがちだった利益を航空会社に留めることを意図しているわけです。
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Winding Treeは独自トークンであるLifを導入しており、ブロックチェーン内での売買にはLifを利用することが求められるようです。情報集約機能を導入するだけならPermissioned Chainの方が向いているのではと思いますが、属性の違う複数当事者が絡む場合には、Winding Treeが採用しているPublic Chainによるガバナンスは、ガバナンス策定でのオペレーショナルコストを削減できる点で有用と言えそうです。


例えば、Public Chainによるオンチェーンガバナンスを採用することで、プラットフォームを採用する企業間では純粋にLifの持ち分によって発言権が動的に変わるようになるため、メンバーの変更、追加などに柔軟に対応できます。Permissioned Chainを利用する場合は、チェーンのガバナンスを別途契約などで決める必要があるため、メンバー追加の柔軟性という意味ではPublic Chainに劣ります。

Winding Treeの事例から考えるブロックチェーンの応用可能性

先日アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が公開した資料の中に、Blockchainの必要性を決めるフローチャートが記載されていました。少しまとめると、以下のようになるかと思います。

  1. 複数のEntityが存在する
  2. 監査が必要(← TransactionでStateを更新していくという性質から、ブロックチェーンが有効)
  3. データコントローラーを決めることが難しい(← 異なる業界プレイヤーが関わる場合、データの管理者を決めるのが難しい場合も多い)
  4. 機微情報を取り扱わない(← 暗号化されていたとしても、GDPRなどの規制対応を考えると不十分な可能性が高い)

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確かにこのフローチャートはブロックチェーンの必要条件の一部を明示してくれていますが、これだけだと十分条件を満たしているとは言えなそうです。Weinding Treeの事例を考えてみると、追加で以下の条件も必要になってくるように思えます。

必須の条件
  • 現実世界の「モノ」が介在しない (またはモノの重要性が低い)


いわゆるOracleなどにより、現実世界の情報を取り込む仕組みの構築が進んでいます。しかし、人間のMisinputやIoT機器のバグなどによる誤入力を完全に防ぎきるのは不可能ですから、外部情報が必要以上に介在する仕組みをブロックチェーンで構築しようとすると、オペレーショナルコストがかかりすぎ、現実的でなくなってしまうといえるでしょう。


今回のWinding Treeの場合は、各航空会社が保有する航空券が外部情報(モノ)になりますが、既に電子化されているうえに、トランザクションが1回で完結する単純な構造であるため、ブロックチェーン向けの情報であるといえるでしょう。

あるとなおよい条件
  • UI/UXの重要度が低い


データレイヤーを分散化したとしても、UI/UXレベルが分散化されていない場合は、結局UI/UXの管理に関わる調整、オペレーショナルコストが必要となるためです。ただ、今回の航空業界での事例のように比較的単純な情報、かつ企業向けの情報であれば、接続方式のみ決定すればUI不要なレベルなので、サービス導入は一層容易になるかと思われます。

CryptoeconomicsとPlasma

これまで3回構成で、Behavioral Crypto EconomicsというElad Verbinの投稿記事を翻訳してきました。ここまでは元記事の翻訳のみでしたが、今回は私見も交えながらCryptoeconomicsの限界とその克服、そしてそれがもたらす可能性を考えます。

Behavior Cryptoに関する記事の要点

翻訳した記事の要点ですが、まとめると以下のようになります。

  • Bitcoinの発明以降、「インセンティブ」を操作するツールとして、ブロックチェーン、トークンは利用されてきた
  • しかし、Bitcoin外への「インセンティブモデル」の拡張は、マイニングのような単純なものから、複雑な人間社会への拡張であるため、限定合理的な人間を想定した設計が必要である
  • 複数種類の限定合理的な人間がもたらす解は無数にあり、最適な均衡を見つけるのは難しい
  • さらに、ブロックチェーンの変更耐性、またトークン経済の急成長という性質が、トライ&エラーで最適解を見つけるのを難しくしている

詳しくは、原文、または翻訳記事をお読みください。
medium.com
www.cryptocoiner.info

私見

Dappsランキングから見るインセンティブ設計

以下の図はDappsの利用者数ランキングです。上位のDappsを見てみると、交換所、ゲームそしてギャンブル系のプロジェクトで占められており、それ以外の種類のDappsについては、Ethereum Name Serviceが21位 (68名)、DAIが22位 (62名)と、ユーザ数ベースでみると下位に低迷しています。
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ユーザ視点で見ると、マーケットでの投機の延長線上で、射幸心を煽りやすい取引所やギャンブルサイト、ゲームが人気を獲得しているといえます(ゲームもERC721系のコレクション系ゲームであったり、懸賞付ゲームが上位にきているのでギャンブルの延長線上といえるでしょう)。

しかし逆に開発者視点で眺めてみると、これらのギャンブルやゲームはトークン設計、特にインセンティブに関する設計が比較的簡単であることがわかります。特にアクターが「キャラクターの売り買いをする人」に限られるERC721系ゲームや、「予測にベットする人」だけに限られるギャンブル系ゲームは、参加者が少ないため操作すべき変数が削減されて安定的なシステムを作りやすくなっています。

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元記事で解説されている上記図で言うと、これらのDappsは右下の「マニュアルワークが多いが、行動の選択肢は少ない」ものに該当しており、ある特定ユーザの思考パターンのみ解析すれば、最適解を導きやすいものであるといえます。そう考えると、22位に位置しているDAIもマニュアルワークこそ多いものの、選択肢は限られているのでギャンブルと同様と言えるかもしれません(個人的には、投票や債権トークンの存在から、DAIはもう少し右上に位置するのではないかと思っていますが)。
MakerDAOのガバナンスモデルメモ 1 | Individua1 | Ethereum経済圏研究

右下から右上(より選択肢が増えた仕組み)に拡張していくにあたっては、ひとつの種類のアクターの不合理性を考慮に入れるだけでなく、複数種類のアクターの不合理性を考慮に入れる必要があるため、最適解が存在しない場合があります。また、現実世界で実験を繰り返して最適解を探索的に見つけるのが近道ですが、翻訳記事でも述べられていた通り、ブロックチェーンの場合再デプロイが難しいという性質を持っているので、初期設計を正しく行わないと最適解が存在している場合であっても、見つけるのが難しいという側面があります。

トークンであれば、スマートコントラクトの設計次第で、ある程度までは再デプロイ可能な形で設計可能ですが、ブロックチェーンになってしまうと(コンセンサスアルゴリズムが分散型である限りは)かなり難しいでしょう。

Plasmaという第3の道

以上のように考えると、Ethereumという基礎レイヤーの上で、右上に位置するシステムを作るのは、難易度が高すぎるように思えてきます。通常のアプリ開発のように少々バグがあっても、早めに市場に出してサービスへの反応を見ながらサービス改善を行うというアプローチを取れないためです。それこそ、初期開発から飛行機開発を行うような緻密な設計、開発そしてテストが求められてしまいます。

一方、Ethereumという基礎レイヤーの上に、Plasmaコントラクトを実装することで、(比較的) 再構築可能なブロックチェーンを構成することができます。そのため、Plasmaが実用的なスケーリングソリューションとして認知され出すと、一気に右上のレイヤーの開発が加速する可能性があります。

翻訳記事では行動経済学者や社会学者の参画が、Cryptoeconomicsの発展には必要と言っています。しかしそれ以上に、実際の市場の反応を見ながらトライ&エラーすることで、遥かに早く安定的なサービス開発をすることが可能だと思っています。

Plasmaがもたらす未来

ブロックチェーン以外の世界のことを考えてみると、これまで制度、特に社会制度を変えることは容易ではありませんでした。なぜなら、そこには複数のステークホルダーが存在しており、仮に今より効率的あるいは公正な仕組みがあったとしても、既得権益との衝突を乗り越えて、新たな仕組みに移行することは非常に困難でした。

結果として、多くの社会制度はトライ&エラーが繰り返されているとは言えない状態であり、また最適ではない状態で長い間放置されています。分かりやすい例は、多数決による投票の仕組みです。

現在の衆議院選挙や、アメリカ大統領選挙のように、複数の候補者から一人にだけ投票する仕組み(つまり、多数決)は、同じような意見を主張する候補者が複数いる場合に票割れの問題が発生します。典型的な例として、2000年の合衆国大統領選挙で、アルゴアが有利だったにもかかわらず、ラルフネーダーが第三極として立候補して、その主張がアルゴアと比較的近かったため、アルゴア票がネーダーに流れてしまい、ブッシュが当選したという例があげられます。

このように明らかな問題がある仕組みであるにもかかわらず、現在の多数決の原理は放置されてしまっています。一方、フランス革命の時代に産まれたボルダは既により公正な集団意思決定の仕組みとしてボルダルールを定式化しており、その後もいくつもの研究が多数決の原理よりも公正な仕組みを考案しています。

それではなぜいまだに、多数決の原理が多くの集団意思決定の場で採用されているのでしょうか。このことには多くの理由があると思いますが、ひとつの理由として、このような社会制度は安定性が重視され、新しい仕組みをトライ&エラーする機会が極端に少ない点が上げられると思います。多数決の原理を変更するのはゲームルールの大きな変更ですから、それ相応の理由が必要というわけです。

しかし、他のより効率的、公正な仕組みは、現実社会でうまくいくかを検証する機会すら与えられていないのですから、他の仕組みからするとこれは負け戦になるわけです。

ブロックチェーン、そしてCryptoecnomicsの発展により、これまでトライ&エラーが難しかった社会制度を、現実の場でシミュレーションすることが簡単にできるようになる可能性があります。ブロックチェーンという限定された経済圏で、多くのトライ&エラーを繰り返すことで、現実社会でワークするより最適な仕組みを産み出すことが可能になります。

このことは、これまでうまくワークしなかった社会制度を一変させるポテンシャルを持っており、それが私がブロックチェーンを、そしてPlasmaを注視していきたい理由のひとつとなっています。

より詳しい元記事の翻訳はこちら

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Crypto Economicsの不都合な真実 - 行動経済学の知見から - (3/3)

前回まで

原文
medium.com

これまでの記事
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私見
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堅牢なインセンティブシステムをつくる?

第2回までで、複雑なCrypto Economicsデザインを実際に利用することは難しく、実験が必要であることがわかった。そのため、ほとんどのCrypto Economicsシステムは失敗を積み重ねて、進化していく必要がある。

だが、それの何が悪いのか?火と文字の発明以降、制度設計や宇宙開発、あるいはコンピュータ、ソフトウェア、インターネットなど、すべてのものは多くの深刻な欠陥を抱えてスタートし、改善を積み重ねてきた。

しかし不運にも、Crypto Economicsやブロックチェーンは他のテクノロジーと違い、そのような反復的な改善プロセスを取り入れることが難しい。

まず第1に、ブロックチェーンシステムは一度本番環境にプログラムをデプロイした後で変更することが難しい設計となっている。いかなる変更であっても、ほとんどのステークホルダーにとって望ましい変更でなければならない。そのため、いかなる変更も強固なステークホルダーの利害と向き合わねばならない。

第2に複雑なブロックチェーンシステムにはもれなく含まれる脆弱性や設計バグは、システムが広く浸透するまで表に現れない場合が多い。しかしその時には、数十億ドルの市場価値やネットワーク効果が生まれてしまっているため、凝り固まったステークホルダーの利害と対決することは非常に困難なこととなる。

例えば、一部のユーザーがある設計バグから利益を得ている場合、そのユーザーは「これは仕様であって、バグではない」と主張するだろう。これはよくある政策変更の課題と同じであり、多数のユーザーを抱える分散型システムの場合はその影響はより顕著である。

火に油を注ぐことに、現在の指数関数的なクリプト経済の成長はこれらの多くの欠陥を見えなくしてしまっている。指数関数的に増大するトークン価値を持つシステムにおいて、成長が止まっているときほど各プレイヤーは敵対的ではない。そのことが意味するのは、ブロックチェーンの価値上昇がスローダウンした際に、悪循環に陥る可能性があるということだ。ガバナンスに問題を抱えてプロジェクトでは、この悪循環はより深刻なものになるだろう。

まとめ

最良の条件に恵まれたとしても、よいインセンティブシステムを構築することは非常に難しいものだ。コードが法であり、匿名のステークホルダーからなるコミュニティに支えられたブロックチェーンシステムを、正しく動作させることは非常に難しい。

我々はBitcoinの成功を喜んでいる場合ではない。我々が直面するインセンティブデザインパラダイムでは、より細部にこだわり、低成長で、抑制と均衡のとれたものとする必要がある。

もしこの新たな経済システムをうまくデザインできなかった場合には、先の金融危機同様、このシステムも勢いを失い、連鎖的に下り坂を転げ落ちることになるだろう。

ブロックチェーン経済が作り変えようとしていた既存の経済と、結局は同じ運命をたどると思うと身の締まる思いがする。私たちは指数関数的な成長と短期的な利益に目をくらまされ、長期的な持続不可能性に目をつぶっている。歴史的に見ると、こうした場合、外部からの市場介入につながる (ブロックチェーンの特徴からすると、納税者による救済が現実的とは思えないが)。

ゼロから経済をデザインしようとした際の歴史に、より耳を傾けるべきだ。滅びゆく経済システムの中には、学びにつながるたくさんの歴史的事実、データが存在している。

ブロックチェーンシステムはいくつかの世界的に重大な問題を解決する類稀なるポテンチャルを持っている。インセンティブを調整し、凝り固まった既得権益にメスを入れることで、社会をよりよい方向に変えることができる。この機会を無駄にしないようにしよう。

私見

私見をまとめてみました。こちらもどうぞ。
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Crypto Economicsの不都合な真実 - 行動経済学の知見から - (2/3)

前回の第1回ではイントロダクションということで、Crypto Economicsのデザインには行動経済学や社会科学の力が必要だという主張を見てきました。今回はSteemitなどを例に、具体的にどのような点でBitcoinと違い社会科学の力が必要になるのかを見ていきたいと思います。

原文
medium.com

第1回
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サトシからSteemitへ

さて、Bitcoinから拡張されたインセンティブデザインを分析していこう。

図1では、いくつかのインセンティブデザインを2軸で表現している。

図1
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*1

Automatibility

意図されたインセンティブ設計を実現するために、どの程度ステークホルダーによるManual Workが必要とされているかの指標。

Bitcoin
コンピュータが決定する。つまり、Bitcoinインセンティブ設計に従うために、Bitcoinのマイナーが意思決定する必要はなく、機械がただただマイニングするだけである。
SteemitやAuger
人間が決定する。つまり、報酬をもらうためには、意思決定をしたり、ブログを書いたりするなどのマニュアルワークが発生する。
Polkadot、PoSシステム (BitcoinとSteemitの中間)
人間にStakeするという行動を取ってもらう必要がある
訳者注) この点はBitcoinもマイニングマシンの投資をしているので同じに見えるが、マイニングマシンはあくまでもBitcoin外部の話であるのに対して、StakeはPoSシステム内部の話である点に違いがある

Size of Action Space

報酬を最大化するために、どれだけ多くの選択肢が用意されているかを示す指標。

Bitcoin (1)
マイニングとバリデーションを誠実にやるという1つの選択肢しか用意されていない。
Steemit、Numerai (∞)
選択肢は無数に用意されている。例えば、Steemitの場合どのような記事が良い記事かは人によるので、それこそ無数にある。同様にNumeraiに関しても、アルゴリズムの設計方法はいくつでも考えられうるので、無数の選択肢が存在している。

チャートからの分析

ブロックチェーンのインセンティブデザインには科学者だけでなく、公共政策の専門家も必要だ。

インセンティブデザインは、コンピュータの最適計算問題から、人間の行動(例えば、ブログへの投稿)にまで拡張されてきた。しかし、そこには問題がある。Crypto Economics界隈で広がった「インセンティブの力」に対する信頼は、「Bitcoin」の輝かしい実績に基づいていた点である。

チャートの左下にBitcoinが位置していることを真実だと仮定すると、Bitcoinが産み出したパラダイムは、いまやチャートの右上に位置しているシステムでも全く同じように動作するという信頼感を得るまでになってしまった。

Steemitのように右上に位置するプロジェクトは、Bitcoinと区別されることなく通常のブロックチェーンベースのCrypto Economicsシステムとして認識されている。しかし、その基礎となるCrypto Economicsモデルは現実世界での試練をくぐり抜けてはいない。

このことは実践的なインセンティブデザインに必要とされる複数のスキルが不足していることを示している。これらのスキルは当然メカニズムデザイン、暗号学、エンジニアリングなども含んでいるが、何より複雑で隠喩的、かつ非合理的に振舞う人間を理解するのに欠かせない行動経済学や人文科学のスキルも必要となる。つまり、ブロックチェーンのインセンティブデザインには「科学者」だけでなく、公共政策の専門家も必要なのだ。

特に難しい点は人間が合理的なアクターではない点だ。実際、人間は最適とは程遠い行動をしばしばとる。典型的な一例はUltimatum Game (最後通牒ゲーム)とよばれるものだ。

Aは100ドルを与えられ、Bに100ドルからいくらかを渡すことを依頼される。BはAのオファーを「受け入れる」か、「拒否する」かを選ばなければならない。もしBが拒否した場合は、AもBも1ドルも得ることができない。一方、もしBが受け入れた場合、BはAからオファーされた額を受け取り、Aはその残額を受け取ることができる。

ゲーム理論では、Bの最適な行動は常にAのオファーを受け入れることだと考えられる。しかし、現実にはAのオファーが30ドル未満の場合には、BはAのオファーを拒否することが多い。また、実験ではAも0.01ドルのようなオファーはせず、20から30ドルのオファーをする場合が多かった。

つまり実験では、A/B両者とも、ゲーム理論的にはとても最適とはいえない戦略を採用していたことになる。

Steemitのような複雑なCrypto Economicsシステムではこのような非合理な行動が同様に発生するだろう。しかし、Steemitなど多くのプロジェクトではこのような非合理性は無視されてしまっている。実際の人間の行動を反映したCrypto Economicsデザインの原則が無視されてしまっているのはなぜだろうか?

行動経済学の適用

行動経済学の観点からすると、上の図の2軸は以下のように解釈されうる。

  • インセンティブデザインにマニュアルワークが必要になればなるほど、デザインは難しくなり、人間の非合理性(確証バイアス、サンクコストの誤謬、集団浅慮など)を考慮する必要があるだろう
  • 行動の選択肢が増えれば増えるほど、最適解を見つけるのが難しくなり、正しい決断をすることが困難になる。コンピュータのマイニングであれば、答えの探索範囲は広いが、最適解を見つけ出すことはできる。人間の場合はそううまくはいかない。人間は選択を嫌がる傾向があり、選択肢が増えれば増えるほど、認知コストは高くなり、悪い結果に繋がりやすくなる。

「比較的安全ゾーン(表のピンク色部分)」外のシステムについては、どの選択肢がプレイヤーの利益を最大化するかを、プレイヤー自身が理解するのが難しいゾーンに位置しているといえる。設計者にとっては悪夢だ。ブロックチェーンのプレイヤーにすら選択が困難なのであれば、安定的で予見可能性の高いシステムを作る難易度は、選択肢の数に対して指数関数的に増大する。

現実世界でうまく動作するシステムをつくるためにメカニズムデザインを利用することは、個々のプレイヤーの選択肢が単純なものであったとしても、とても難しいことだ。「比較的安全ゾーン」の外に位置するような、最適な選択をすることが難しいシチュエーションの場合、メカニズムデザインの設計者がうまく設計することは非常に困難であろう。

次の記事はこちら

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Crypto Economicsの不都合な真実 - 行動経済学の知見から - (1/3)

今回はドイツの研究者Elad Verbinが最近Mediumに投稿したCrypto Economicsに関する記事を翻訳してきます。最近Crypto Economicsに関する取り組みが増えていますが、Bitcoinに比べてナイーブな前提に立っている場合が多いように感じます。この記事ではそのような現状に対して、行動経済学の視点から斬り込んでいます。

全文翻訳はかなり長くなってしまうので、3回構成に分けてポストします。

medium.com

要約 (イントロダクション/第1章)

Bitcoinの誕生と同時に生まれたブロックチェーンは、現在はインセンティブ設計を行うことで人々の行動を制御する仕組みとして注目されている。この仕組みは最近ではCrypto Economicsと呼ばれている。

しかし、ビットコインで導入されたCrypto Economicsが完全合理的な人間を仮定していなかったことに比べて、現在の多くのプロジェクトは人間が合理的に行動するという仮定に依存してしまっている。

行動経済学の知見をもとに、現在のCrypto Economicsが一般的に不十分であることを確認し、より心理的側面を重視したインセンティブ設計が必要であることを明らかにする。

全文翻訳

Introduction

2009年にサトシ・ナカモトがインセンティブを利用して、ビットコインを作り出した。その後時が経ち、2018年には数十億ドル規模のブロックチェーンプロジェクトが産まれている。これらのプロジェクトでは、インセンティブをビットコイン同様の仕組みでデザインしており、一般的に効率的市場仮説と集合知に基づいたデザインとなっている。しかし、人間が想定しているほど合理的でない場合にそのデザインは適切といえるだろうか?

Crypto Economicsは経済デザインの新しいパラダイムだ。Crypto Economicsによってはじめて実用的なデジタル貨幣が成立したが、最近では一種の「銀の弾丸」となりつつある。輝かしい未来を実現するために、あらゆる分野で「インセンティブ」を操作することがブームとなっている。

例えば、以下のような新しいサービスが立ち上がっている。

  • 計画と予測 (Gnosis、Auger)
  • ソーシャルメディア (Steemit)
  • 評価経済と自己組織化 (Colony、Boardroom、Democracy.Earth)
  • データ活用 (Ocean、Numerai)

しかし、単純なシステムを構築するために作られた仕組みを複雑なシステムに拡張するには、ルールに従って行動するように設計された原則を理解し、それを「人間」に適用する必要がある。

この時気をつけなければならないのは、人間は合理的に振舞うと仮定しがちだが、時に人間は経済的に最適でない決断をする傾向があるという点である。一般的に人間は、「おおむね正しい」決断をしがちだ。つまり、多くの状況では正しい決断だが、時に悲惨な結末に至る決断をしてしまう場合があるということだ (例えば、投票や複雑な金融市場で果たしてあなたは合理的に行動できているだろうか?)。

この記事では、行動要因と心理的側面がCrypto Economicsで十分に考慮されていないということを主張する。Crypto Economicsを長期的に有用な、そして成功するものにするためには、行動経済学者や社会学者などの専門家の参画が必須である。

1. Introduction: Bitcoin、行動経済そしてCrypto Economics

まずはBitcoinから話をスタートしよう。

インセンティブ設計のコンセプトはサトシ・ナカモトのBitcoin Whitepaperからはじまり、Andreas AntonopoulosのMastering Bitcoinによってまとめられた。ナカモトはインセンティブデザインを使うことで、前人未到の堅牢で安全、分散化されたデジタル通貨を発明した。

ナカモトのデザインには以下のような特徴がある。

  • マイナーにネットワークを維持するインセンティブを与え、プロトコルの通常の動作から逸脱した動きをしないようにコントロールした
  • マイナー、ユーザー、開発者といったすべてのステークホルダーのインセンティブを合理的に調整した
  • オープンソースという性質は、Bitcoinが攻撃を受けた時に別のチェーンに逃げる選択肢をステークホルダーに与えることで、攻撃者のインセンティブを削いだ
  • ビザンチン将軍問題に対してゲーム理論的な解を見つけた。つまり、正直に振舞うマイナーには報酬を与えるが、ルールに反するマイナーには報酬を与えず、電気代というコストを徴収するモデルだ

このようなゲーム理論に基づくナカモトのデザインは、驚くほどマイルドだ。Bitcoinはたった51%のマイニングパワーが協力するだけで、崩壊するリスクがある。

それでは、なぜこの仕組みはうまく動作したのか。決定的なポイントは、BitcoinのセキュリティモデルはHomo Economics (完全に経済合理性をもった行動をとる人間)の前提にたっていない点だ。むしろ、一部の人々が経済合理的でなかったり、あるいは悪意を持った組織的な攻撃を一部の人々が仕掛けたとしても、Bitcoinは安全である。SteemitやAugerなどの最近のプロジェクトに比べて、Bitcoinはかなり現実的な仕組みになっている。

2009年から、インセンティブ設計はかなり高度になってきている。現在では、より複雑なシステムにインセンティブモデルを適用するようなブロックチェーンプロジェクトが増加している。

  • Zcashなどの第一世代ブロックチェーンや、Ethereumなどの第2世代ブロックチェーンではBitcoin型のインセンティブ設計を受け継いでいる
  • Gnosis、Augerや他の予測市場は価格発見メカニズムを利用することで、将来予測を試みている。つまり、正確な未来予測をすることに対して報酬を用意することで、正しい未来を予測しようと試みる
  • Steemitは価値のある情報をシェアしたり、他人の投稿の品質に対して正しい評価をするインセンティブ設計となっている。他のReputation Systemでは、よい評判の参加者に「いいね」するようにインセンティブデザインされている(これは人間社会の一般的なReputation Systemと同様の仕組みである)
  • Numeraiはデータサイエンティストに、金融取引に利用できるよりよいアルゴリズムを考案するインセンティブを与えている
  • Futarchyはユーザーによりよい決断をするインセンティブを与えている
  • Oceanはよいデータセットを選択し、既存のデータセットにさらなる価値を与えるようにインセンティブが与えられている(NumeraiとGnosisがセットになったようなものと考えると分かりやすい)
  • Polkadotはネットワーク(ValidatorとCollator)で正直に振舞うインセンティブをステークホルダーに与え、悪意を持った参加者 (Fisherman)を見つけ出し、誰が本当に信用に値する人 (Nominator)かを決定できるデザインとなっている

全体的に、インセンティブデザインは多くのエキサイティングなサービスを作り出しており、ブロックチェーンシステムの主要な特徴の一つとみなされている (より正確には、高可用性を維持した状態で、非常に多種多様なインセンティブ設計を実装する手段である)。このことは最も著名なブロックチェーン開発者であるTrent McConaghyのブログ記事からも伺える。

ブロックチェーンコミュニティは、ブロックチェーンが数多くのトークンホルダーのインセンティブを調整する役割を担えることを理解している。例えば、トークンホルダーはskin in the game (リスクを保持している人)である。ブロック報酬あるいはトークンを利用することで、インセンティブデザインが可能であり、ブロックチェーンはインセンティブメカニズムであるといえる。

このことはとてつもない力を我々に与える。例えばブロック報酬は、ネットワーク参加者がどのように振舞うかを定義する機能がある。ただ、どの程度その意図が参加者に伝わるかにはいくつかのレベルがある。あなたは正しいインセンティブを設計を本当にわかっているだろうか?

次の記事

次の記事ではSteemitを題材に具体的にどのような点が問題で、どのようにしたら解決できるのかを確認していきます。
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ジャカルタ初のスマート店舗 JD.ID X

先週末、ジャカルタのPIK Avenueに登場したJD.ID Xという、スマート店舗に行ってきました。詳しくはYouTube動画を見ることをオススメしますが、顔認識技術とRFID技術を利用することで、無人店舗を実現するためのコンセプトショップです。


Introducing JD.ID X-Mart

JD.IDとは

中国でのオンラインショップといえばAlibabaが有名ですが、「京東商城(JD.com)」は中国EC業界第2位としてAlibabaを追いかけています。Alibabaはどちらかというと日用品や小物などがなんでも揃うという品揃えを強みとしていますが、JD.comは工場で組み立てたものを自社倉庫にすぐに移動するルートを確保したり、午前中の注文は当日中に配達するなど、自社保有の物流面で勝負をしています。


一方、東南アジア、特にインドネシアではJD.comはAlibabaに遅れを取っている印象です。JD.comは2015年にインドネシアにJD.IDとして進出しましたが、2017年のデロイトのeコマースプラットフォーム調査では名前も登場していない状態です。


2018年時点で訪問者数ベースでJD.IDはインドネシア第4位ですが、Alibabaが買収したLazadaとは約3倍の差があります。ただ、インドネシア国内でも中国国内同様配送網を自前で用意するなど、足場固めを進めてきました。

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デロイト消費者調査
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/consumer-business/cp/jp-cp-ci2017idn.pdf

店舗の雰囲気

今回のJD.ID Xは中国国内で30店舗以上運営している店舗ノウハウをつぎ込んだものですが、今回の店舗は実用的な店舗というよりは、あくまでも実験店舗という位置付けのようでした。その証拠に、店舗スタッフも7人ほど働いており、無人店舗と言える状態ではありません。


とはいえ、このようないわゆるスマート店舗のジャカルタへの進出は今回が初の店舗であり、実際に現地に行ってみると新しいものが好きそうな華僑系の若者から中年層の人がひっきりなしに訪問していました。みなさん特に買いたいものがあるわけではなかったので、腐る心配のない洗剤がやけに売れていました笑
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商品購入の流れ

さて、流れとしては、以下の通りです。なお、事前にインドネシアで発行されたクレジットカードをJD.IDアプリに登録する必要があります。私は残念ながらインドネシアのクレジットカードを持っていなかったので、外から見学です。

  1. (入店) クレジットカードと連携したJD.IDアプリで表示したQRコードを、入り口のゲートで読み込み
  2. (店内) RFIDタグがついた商品を自由に手に取りカゴへ
  3. (退店) 一人ずつ顔認証ルームにて顔認証 (+ RFIDタグの読み取り)を行い、顔認識されればゲートが空き退店
中国での従来型店舗との差異

こちらの記事をみると、中国国内ではRFIDタグではなく、カメラ及び商品棚のセンサーで在庫状況を管理しているようですが、今回の店舗ではRFIDタグが健在でした。


RFIDタグの場合は一度に大量の入店があった場合でも、商品情報を識別できる点に利点がありますが、今回の店舗の場合店舗面積が非常に小さいため、カメラで認識に問題が出ることは考えづらいと思われます。
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どちらかというと、今回RFIDを利用しているのは、取り扱い商品の差が要因かと思われます。今回の店舗は服などのアパレル商品も取り扱っています。アパレル商品の場合は、陳列されている商品を試着したり、試着した商品を同じ位置に戻さないなど、ジュースや菓子類などと違う商品特性を持っています。このような商品を取扱うためには、最後に一括して商品情報を読み取れるRFIDタグが最適です。


経済産業省や日本の各企業は、現在1枚10円程度するRFIDタグを、2025年に1円以下にする目標を立てています。こうしたRFIDタグの価格下落の見通しも、今回のRFIDタグを利用した実験を後押ししていると言えます。
第386号 物流・流通を変革する武器RFID(自動認識システム)を考える。(前編)(2018年4月24日発行) | ロジスティクス・サービス・プロバイダ/サカタグループ(Since 1914)

今後の展望

インドネシアではオンラインショッピングの経験者が2016年から2017年にかけて25%近く上昇して(上記デロイトの調査レポートより)おり、今後も中間層が成長することが見込まれることから東南アジア一の市場と目されています。


JD.comはインドネシアにおいても中国での戦略同様、物流網の強化による配送スピードの改善に取り組んでおり、85%の注文を同日または翌日中に配送することを目標としています。一般にEC企業の物流というと、BukalapakがGo-JEKと提携、TokopediaもGo SendやGrabexpressを利用するなど、都市部の配送にバイクタクシーを活用することで倉庫から顧客への物流効率をあげることが注目されますが、Lazadaが東南アジアに巨大倉庫を次々に建設するなどEC企業にとって倉庫は切っても切れない存在です。


その中でもJD.comは中国では完全無人の物流施設を運営するなど倉庫運営業務には定評があり、得意の倉庫を中心とした物流網をインドネシアに構築することで、配送時間の短さを実現、訴求していきたいところです。その上でリアル店舗を通したインドネシアの顧客情報収集を行うことで、中国で進めているオンラインとオフラインの融合をインドネシアでも進めていきたい考えです。

Coincheckハック事件がもたらすプラスの影響

CoincheckにてNEMのハッキング事件が発生し、約5.26億NEM (約500億円)が流出したというニュースが1月26日に報道されました。

ビットコイン取引所「コインチェック」で620億円以上が不正に引き出される被害が発生(追記あり)(山本一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース


このハッキング事件は短期的には市場に影響を与えており、NEMのみならずそれ以外の通貨についても、一時的に価格が大きく下落することになりました。

NEMの価格
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BTCなど他の通貨の価格
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Cryptowatch - live Bitcoin price charts


しかし、長期的な目線に立つと、この事件は仮想通貨への印象の悪化などの負の影響だけではなく、ユーザリテラシの向上などの正の影響も大きいのではないだろうかと考えています。

Coincheckハック事件の概要

Coincheckの発表などを参考にすると、経緯は以下の通りです。
公式ブログメンテナンスのお知らせ | コインチェック株式会社

タイムライン
  • 12:07 NEMの入金を制限
  • 12:38 NEMの売買停止
  • 14:00頃 Coincheck社が不正なXEMの引出しを把握
  • 14:40頃 NEM財団がCoincheck社にコンタクト
  • 16:33 円を含めて、取扱通貨の出金を停止
  • 17:23 BTC以外のオルトコインの取引を停止
  • 18:50 クレジットカード、ペイジー、コンビニ入金による入金を停止
  • 23:30頃 Coincheck社が記者会見
発生した原因

発生した詳細な原因はCoincheck社が引き続き調査中ですが、NEMの管理にはコールドウォレットないし、マルチシグを利用していなかったことが判明しています。

長期的な影響

冒頭で述べた通り、短期的には負の影響があるかと思いますが、必ずしも長期的に負の影響ばかりが残るとは考えていません。

取引所リスクの認知とウォレットの使用

これまで日本ではMt Gox事件以降大規模な取引所ハック事件が発生していなかったため、取引所に仮想通貨を預け入れることに対してあまり抵抗感がありませんでした。しかし海外に目を移すと、毎年数件取引所による持ち逃げ事件が発生しているほか、最近では中国や韓国のように規制による取引所閉鎖リスクも認識されつつあります。


Bitcoinが本来持つ思想は、誰もトラストすることなく資産を安全に保管、移転できるという点にあります。その点から考えると、現在の取引所信仰は本来Bitcoinが持つ思想からはかけ離れており、暗号通貨の進展にとっては必ずしも良い状況とは言えませんでした。


今回の事件を機に、自分自身が保有するウォレットで仮想通貨を保管する習慣が形成されれば、ハック事件が発生することに対する影響を軽減できるだけでなく、DEX (分散型取引所)などの新たな技術の開発にも繋がります。


DEXやBancorなどの分散型取引所、分散型コイン交換方式は2018年に開発が進展することが予想されており、今回の事件は結果としてそのような技術の後押しになるのではないかと期待しています。

中央集権型通貨へのリスク認識の浸透

今回14:00頃に事件発生が確認された後、14:40にはNEM財団とCoincheckの間で協議が持たれたと報道されています。今回の事件に関してNEM財団は、ハックされたXEMを取り戻すためのハードフォークを行わないとの断固とした声明を発表しています。
Coincheck Hack: "The Biggest Theft in the History of the World"


一事件に対して恣意的にハードフォークを決めるのは中央集権となんら変わりがないため、この声明自体には私は賛成です。しかし、もう一歩踏み込んで考えると、そもそも「NEM財団が一事件のハードフォーク実行に対して大きな影響を及ぼすことができる」ということ自体が問題であるともいえます。


今回のようにNEM財団が「正しい」決断を常にし続けられるのであれば、もちろんそれに越したことはありません。


しかし攻撃者からすると、NEM財団さえ調略すれば、NEMを好き放題自由にできるということにつながり、NEM財団が単独攻撃点となってしまいます。この点に関しては、Bitcoinも開発者の力が大きな影響を及ぼしますが、コミュニティの多様性、マイナーという外部経済が存在することによる牽制機能のおかげで、多くの通貨よりは単独攻撃点となりづらい構造になっています。


また、「正しい」という基準は当然人によって異なり、開発メンバーが正しいと思うことが、他のコミュニティメンバーの正しさとは乖離していることは当然ありえます。そのような場合に、開発メンバーの考える正しさを押し通せてしまうとすると、結局中央集権型のFiat通貨が持つ特性と何も変わらなくなってしまいます。


今回の事件を機に、仮想通貨が本来持つ「分散型セキュリティ」の特性に気づく人が増え、仮想通貨の価格だけでなく、その思想、技術面の理解が進むことを期待しています。

まとめ

まとめると、今回のハック事件は、以下のような点でユーザのリテラシーの向上に繋がると考えています。

  1. 中央集権型取引所のリスク認識の浸透(+ ウォレットの浸透)
  2. 中央集権型通貨へのリスクの浸透


念のため追記ですが、今回のハック事件はNEMのみならず、他の通貨でも発生する可能性があるものであり、NEMの脆弱性では一切ありません。また、NEMよりも中央集権な通貨はいくつも存在しています。問題なのは、中央集権という点を理解せずに購入する人がいることであり、理解している上で買う人がいることは全く問題はありません。


でも、個人的には分権型通貨が生き残る未来を見てみたいな。

インドネシアにおけるBitcoin規制 (時系列)

ここ数ヶ月、インドネシアでBitcoinに対する規制のトーンがだんだんと強くなっています。これまでも、中央銀行に当たるBank Indonesia(以下、BI)は繰り返し、「Payment Medium (送金手段)として、仮想通貨の利用は認められない」と述べてきましたが、実際の規制、行動は伴っておらず、そこまでトーンの強いものではありませんでした。しかし、去年の12月頃からBIから声明、及びFintech事業者への規制が発表され、にわかに動きが激しくなってきました。


もちろん、「法規制」とするには時間がかかることではありますが、中国のように取引所の自主的な閉鎖などが発生することは考えられるため、一度現状の規制をまとめておきたいと思います。

2017年初頭の中国PBoCによる規制はこちら
www.cryptocoiner.info

時系列まとめ

2017年10月

Toko BitcoinとBitcoin Bayarという2つのBitcoin決済事業者が、BIの声明に従うためサービスを停止することを発表。以前からBIは、Bitcoinをインドネシアでの決済手段としては認めないことを繰り返し述べていた。
Indonesian Bitcoin Exchange Close Down amidst Regulatory Pressure

2017年12月6日

BIは声明の中で、Bitcoinなどの暗号通貨の送金(Transaction)を規制する法律を、2018年中に施行することを明言。既存のe-pyamentの枠組み内で規制すべきか、暗号通貨に関する別の法律を制定して規制すべきかが争点になっている。


また、BIの担当官によると、Bitcoinはテロ送金、マネーロンダリング、売春、ドラッグの取引に潜在的に使われる可能性があると警戒している。

Bank Indonesia to ban Bitcoin transactions next year - Business - The Jakarta Post

2017年12月13日

日本の金融庁(金融監督部門)にあたるOJKは、Bitcoinへの投資に対する規制を制定予定であることを発表。声明の中でOJKのHoesenは、Bitcoinへの投資に関する規制が現状ないため、違法(illegal)とみなされるだろうと述べた。


また、現在Bitcoinへの投資を行っている人たち(Parties)のリストアップを行っていることをコメント。
OJK to Issue Rule on Bitcoin Investments - engteco_news Tempo.co

2017年12月20日

BIはFintechに関する広範な規制を発表(No. 19/12/PBI/2017)。
この中でFintech関連業者が決済手段として仮想通貨(Virtual Currency)を利用することを禁止。
http://blog.ssek.com/index.php/2017/12/indonesian-central-bank-regulates-financial-technology/

2017年12月21日

OJKとBIが投資目的のBitcoin利用に関して、ディスカッションを開始。
OJK, Bank Indonesia Discuss Bitcoin for Investment - engteco_news Tempo.co

2018年1月13日

BIはPress Releaseにて、仮想通貨は合法的な決済手段ではなく、発行主体がなく、2011年の通貨法(the 2011 currency act)に違反していると述べた。

Bank Indonesia affirms that it forbids all payment system operator (principal, switching operator, clearing operator, final settlement operator, issuer, acquirer, payment gateway operator, electronic wallet operator, money transfer operator) and financial technology operators in Indonesia, both bank and non-bank institution, to process transactions using virtual currency, as stated in Bank Indonesia Regulation No. 18/40/PBI/2016 on Implementation of Payment Transaction Processing and Bank Indonesia Regulation No. 19/12/PBI/2017 on Implementation of Financial Technology.


なお、この声明は決済手段に関する規制を述べた声明で、取引所に関する言及はない。ただし、暗号通貨保持に対するリスクは以下のように言及している。

The ownership of virtual currencies is high risk and prone to speculation because there is no authority who takes responsibility, there is no official administrator and there is no underlying asset to be the basis for the price


また、すでに投資している人たちの間でパニックを引き起こすのではないかという質問に対しては以下のように述べている。

They didn’t consult with us when buying....please help us make the people understand.

Indonesia central bank warns over cryptocurrencies - Reuters
Indonesia Central Bank: Cryptocurrency Payments 'Not Legitimate' - CoinDesk

2017年1月15日

Bank Indonesiaは警察と協力し、バリ島内で決済手段としてBitcoinが利用されないように監視を行うことを発表。
Bank Indonesia, police prevent bitcoin transactions in Bali - Business - The Jakarta Post


所管

Bank Indonesiaはどちらかというと決済手段としてのBitcoinを警戒しているように思われます。中央銀行としてルピアの信任を維持したいというのが第一の目的となるので、当然と言えば当然です。


一方、金融機関の規制を担当するOJKは、投資目的のBitcoin保有に踏み込んで規制を行う姿勢を示しています。OJKは12月頃より活動を本格化させており、BIの決済手段としてのBitcoin禁止に続いて、OJKによる取引所規制がどのタイミングで発表されるのかが次の焦点になります。

PoWからPoSへ コンセンサスアルゴリズムの歴史

ジャカルタ某所にて、第1回暗号通貨勉強会を開催しました。 テーマとしては、(意図せず)コンセンサスに関する話題が2件連続で続き、コンセンサスこそが暗号通貨の肝と考える私としては、非常に面白い会になりました。  
 

PoSに関しては、EthereumにてCasperの実装が進んでいるほか、最近ではTendermintベースのCosmosのローンチも控えているなど、これまで机上のストーリーであった(ナイーブでない)PoSが、2018年には実際に大規模なネットワークで稼働することになります。果たして、持続可能性を維持しつつワークするか、今年は注目したいと思っています。  
 

当日発表資料から少しいじっていますが、このブログでも資料の一部を共有しておきます。

ちなみに、CasperのCFFTとCTFGの具体的な実装方法があまりわかっていません。解説資料などご存知の方がいらっしゃったら、共有いただけると嬉しいです!