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CryptoeconomicsとPlasma

これまで3回構成で、Behavioral Crypto EconomicsというElad Verbinの投稿記事を翻訳してきました。ここまでは元記事の翻訳のみでしたが、今回は私見も交えながらCryptoeconomicsの限界とその克服、そしてそれがもたらす可能性を考えます。

Behavior Cryptoに関する記事の要点

翻訳した記事の要点ですが、まとめると以下のようになります。

  • Bitcoinの発明以降、「インセンティブ」を操作するツールとして、ブロックチェーン、トークンは利用されてきた
  • しかし、Bitcoin外への「インセンティブモデル」の拡張は、マイニングのような単純なものから、複雑な人間社会への拡張であるため、限定合理的な人間を想定した設計が必要である
  • 複数種類の限定合理的な人間がもたらす解は無数にあり、最適な均衡を見つけるのは難しい
  • さらに、ブロックチェーンの変更耐性、またトークン経済の急成長という性質が、トライ&エラーで最適解を見つけるのを難しくしている

詳しくは、原文、または翻訳記事をお読みください。
medium.com
www.cryptocoiner.info

私見

Dappsランキングから見るインセンティブ設計

以下の図はDappsの利用者数ランキングです。上位のDappsを見てみると、交換所、ゲームそしてギャンブル系のプロジェクトで占められており、それ以外の種類のDappsについては、Ethereum Name Serviceが21位 (68名)、DAIが22位 (62名)と、ユーザ数ベースでみると下位に低迷しています。
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ユーザ視点で見ると、マーケットでの投機の延長線上で、射幸心を煽りやすい取引所やギャンブルサイト、ゲームが人気を獲得しているといえます(ゲームもERC721系のコレクション系ゲームであったり、懸賞付ゲームが上位にきているのでギャンブルの延長線上といえるでしょう)。

しかし逆に開発者視点で眺めてみると、これらのギャンブルやゲームはトークン設計、特にインセンティブに関する設計が比較的簡単であることがわかります。特にアクターが「キャラクターの売り買いをする人」に限られるERC721系ゲームや、「予測にベットする人」だけに限られるギャンブル系ゲームは、参加者が少ないため操作すべき変数が削減されて安定的なシステムを作りやすくなっています。

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元記事で解説されている上記図で言うと、これらのDappsは右下の「マニュアルワークが多いが、行動の選択肢は少ない」ものに該当しており、ある特定ユーザの思考パターンのみ解析すれば、最適解を導きやすいものであるといえます。そう考えると、22位に位置しているDAIもマニュアルワークこそ多いものの、選択肢は限られているのでギャンブルと同様と言えるかもしれません(個人的には、投票や債権トークンの存在から、DAIはもう少し右上に位置するのではないかと思っていますが)。
MakerDAOのガバナンスモデルメモ 1 | Individua1 | Ethereum経済圏研究

右下から右上(より選択肢が増えた仕組み)に拡張していくにあたっては、ひとつの種類のアクターの不合理性を考慮に入れるだけでなく、複数種類のアクターの不合理性を考慮に入れる必要があるため、最適解が存在しない場合があります。また、現実世界で実験を繰り返して最適解を探索的に見つけるのが近道ですが、翻訳記事でも述べられていた通り、ブロックチェーンの場合再デプロイが難しいという性質を持っているので、初期設計を正しく行わないと最適解が存在している場合であっても、見つけるのが難しいという側面があります。

トークンであれば、スマートコントラクトの設計次第で、ある程度までは再デプロイ可能な形で設計可能ですが、ブロックチェーンになってしまうと(コンセンサスアルゴリズムが分散型である限りは)かなり難しいでしょう。

Plasmaという第3の道

以上のように考えると、Ethereumという基礎レイヤーの上で、右上に位置するシステムを作るのは、難易度が高すぎるように思えてきます。通常のアプリ開発のように少々バグがあっても、早めに市場に出してサービスへの反応を見ながらサービス改善を行うというアプローチを取れないためです。それこそ、初期開発から飛行機開発を行うような緻密な設計、開発そしてテストが求められてしまいます。

一方、Ethereumという基礎レイヤーの上に、Plasmaコントラクトを実装することで、(比較的) 再構築可能なブロックチェーンを構成することができます。そのため、Plasmaが実用的なスケーリングソリューションとして認知され出すと、一気に右上のレイヤーの開発が加速する可能性があります。

翻訳記事では行動経済学者や社会学者の参画が、Cryptoeconomicsの発展には必要と言っています。しかしそれ以上に、実際の市場の反応を見ながらトライ&エラーすることで、遥かに早く安定的なサービス開発をすることが可能だと思っています。

Plasmaがもたらす未来

ブロックチェーン以外の世界のことを考えてみると、これまで制度、特に社会制度を変えることは容易ではありませんでした。なぜなら、そこには複数のステークホルダーが存在しており、仮に今より効率的あるいは公正な仕組みがあったとしても、既得権益との衝突を乗り越えて、新たな仕組みに移行することは非常に困難でした。

結果として、多くの社会制度はトライ&エラーが繰り返されているとは言えない状態であり、また最適ではない状態で長い間放置されています。分かりやすい例は、多数決による投票の仕組みです。

現在の衆議院選挙や、アメリカ大統領選挙のように、複数の候補者から一人にだけ投票する仕組み(つまり、多数決)は、同じような意見を主張する候補者が複数いる場合に票割れの問題が発生します。典型的な例として、2000年の合衆国大統領選挙で、アルゴアが有利だったにもかかわらず、ラルフネーダーが第三極として立候補して、その主張がアルゴアと比較的近かったため、アルゴア票がネーダーに流れてしまい、ブッシュが当選したという例があげられます。

このように明らかな問題がある仕組みであるにもかかわらず、現在の多数決の原理は放置されてしまっています。一方、フランス革命の時代に産まれたボルダは既により公正な集団意思決定の仕組みとしてボルダルールを定式化しており、その後もいくつもの研究が多数決の原理よりも公正な仕組みを考案しています。

それではなぜいまだに、多数決の原理が多くの集団意思決定の場で採用されているのでしょうか。このことには多くの理由があると思いますが、ひとつの理由として、このような社会制度は安定性が重視され、新しい仕組みをトライ&エラーする機会が極端に少ない点が上げられると思います。多数決の原理を変更するのはゲームルールの大きな変更ですから、それ相応の理由が必要というわけです。

しかし、他のより効率的、公正な仕組みは、現実社会でうまくいくかを検証する機会すら与えられていないのですから、他の仕組みからするとこれは負け戦になるわけです。

ブロックチェーン、そしてCryptoecnomicsの発展により、これまでトライ&エラーが難しかった社会制度を、現実の場でシミュレーションすることが簡単にできるようになる可能性があります。ブロックチェーンという限定された経済圏で、多くのトライ&エラーを繰り返すことで、現実社会でワークするより最適な仕組みを産み出すことが可能になります。

このことは、これまでうまくワークしなかった社会制度を一変させるポテンシャルを持っており、それが私がブロックチェーンを、そしてPlasmaを注視していきたい理由のひとつとなっています。

より詳しい元記事の翻訳はこちら

www.cryptocoiner.info