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Bitcoinとイスラム教

Bitcoinに関して、エジプトのイスラム指導者が「ハラム(イスラム法に反している)」というファトワ(法学者の意見)を表明しました。
Saudi Cleric Says Digital Currency Bitcoin is Haram in Islam


私自身はムスリムでもなんでもないですが、ムスリムが多い国にしばらく滞在しているので、今後の規制を考える参考として一度現状をまとめてみました。

そもそもイスラム教って

前提として理解しておきたい、イスラム教知識をまとめます。
なお、調べながら書いているので、「それは違う!」ということがありましたらご指摘いただけると嬉しいです。

イスラム世界での法解釈手段

ご存知の通り、イスラム教は現在のサラジアラビアでムハンマドによって誕生しました。誕生後、誰が正当なイスラム教の指導者かを巡って、大きくスンナ派とシーア派に分裂します。シーア派はその時々の指導者による指導を重視する一方で、スンナ派は聖典であるクルアーン(コーラン)やハディースというムハンマドの言行をまとめたドキュメントを重視しています。


さて、上述の通りスンナ派ではクルアーンやハディースなどのドキュメントがあるわけですが、当然時代の移り変わりに伴ってそれだけでは直接適用できない問題が発生します。Bitcoinもそうですし、Facebookなどのソーシャルメディアもイスラム教としてOKかどうかが気になって手を出せない人も出てきてしまいます。


そうした問題が出たときの解決方法として、スンナ派が考えているのがイスラム法学者による「合意」と「類推」です。

ファトワ

Bitcoinがイスラム法に則って、合法(ハラル)かどうかを気にするムスリムは、法学者に対してBitcoinは合法かどうかのお伺いを立てることができます。その要請に基づいて、イスラム法学者はクルアーンやハディースからイスラム教が意図する方向性を考え、その考えに基づいて自身の見解を示します。


これらの見解がイスラム法学者間で反論もなく一致したら、「合意」が形成されたとみなされます。ただ、当然解釈には複数の解釈が考えられる問題もあり、イスラム法学者間でその意見が割れることはよくあります (ちなみに、以前には雪だるまやミッキーマウスが偶像として違法認定されたことも。。。)。


そういった場合には、各イスラム法学者によって見解は割れるものの、クルアーンやハディースからの「類推」で、合法かどうかを判断することになります。ただ、それだと見解が割れてしまい困ったことになるので、国によっては、統一的な見解を出すために評議会のような合議制の決定機関を持つ国もあります。例えばインドネシアでは、インドネシアウラマー評議会(MUI)という機関が法解釈を統一しています。


そして、これらの「合意」や「類推」の元になる各イスラム法学者の公式見解を「ファトワ」と呼んでいます。


参考
イスラム法の法源について
http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20131119

イスラム教の全体的な歴史は、以下の広瀬さんの記事が分かりやすいです。
15分でわかるイスラム教 - Market Hack

Bitcoinのイスラム教における位置づけ

Bitcoinは21世紀に誕生したものなので、当然クルアーンやハディースに情報はありません。そのため、各イスラム法学者が見解を出して、その見解に基づいてだんだんと統一見解が生まれていくという流れになります。


去年cointetelegraphに掲載された記事では、あるインドネシア起業家のコメントとして、Bitcoinはハラル(合法)なのではないかという見解を載せています。ただし、彼は(おそらく)イスラム法学者ではないので、イスラム世界における法解釈には影響がありません。これは当たり前のことで、日本でも誰もが独自に自分の解釈が法律だと言いだしたら、わけのわからないことになってしまいます。
https://cointelegraph.com/news/is-bitcoin-halal-how-cryptocurrency-conforms-with-islam-and-sharia


このように統一見解がない中で、「ビットコインはハラム(違法)だ」と述べたイスラム法学者が現れたというのが先日の記事です。その根拠は、大きく2つあり、

  • Bitcoinの持つ匿名性(anonymousity)がドラッグ購入などの違法な用途に使われるため
  • 価格推移が投機的

というものです。また、11月にもトルコの宗教関連団体が「Cryptocurrencyは違法である」という見解を表明していますし(理由はほぼ同じで、違法な用途に使われることが多いとのこと)、サウジアラビアの皇太子もエンロン事件とスキームが同じだということを話しています。


もちろんこの「匿名性」というのは、技術的には誤解でありそれが理由だとすると、あまり説得力を持たないものと考えられるかもしれません。ただ、投機的という点については否定することは難しく、それを根拠にイスラム世界で非合法ということになるかもしれません。
A Saudi cleric says 'bitcoin' is haram ... wait, what?


ただ、今回の件で覚えておきたいことは、この解釈はまだイスラム教世界で確定したものではなく、この指導者を指導者と考えるコミュニティ内でしか効力がないという点です。同じイスラムといっても、サウジアラビアなどのイスラム教が国家単位で適用される国から、インドネシアのように土着の宗教と一体化しており、イスラム法はあくまでも法ではなく、社会規範として存在しているような国もあるので、一人の指導者の見解があまねく全体に適用されるというわけではないのです。


今回のファトワが今後のイスラム世界でのBitcoinの解釈に影響を及ぼすことはあるでしょうが、その解釈が固まるのはまだまだ先でしょう(というより、永遠に固まらないかもしれないですが)。


ちなみにイスラム世界では「ハワラ」という匿名送金手段もあり、こちらはハラル(合法)となっているようです。そことの整合性を考えると、匿名性とかブラックマーケットでの利用というのはあまり理由にならない気もします。
www.cryptocoiner.info

Is money transfer(hundi) is halal or haram. thanks - Encyclopedia of searchable Islamic Q & A - Islamhelpline

番外編

Kojiさんが最新動向を調査するとのことなので、楽しみにしています!