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Mastering Bitcoinを読み解く 第1回 トランザクション

遅ればせながらMastering Bitcoinを読んでみました。分かっていた気になっていたけど実は分かっていなかった点があぶり出されて、非常にすっきりした気分です(笑)。

Mastering Bitcoin

Mastering Bitcoin

 

 

備忘を兼ねて、解消された不明点をまとめますが、あまりにもきちんと理解できていなかった箇所が多いので、何回かに分けてまとめます。第1回はトランザクションから。

 

トランザクションのValidateの順番

あるノードから受信したトランザクションは、以下の検証ステップを経て、各ノードに正統なトランザクションとして受け入れられます。念のためですが、これはブロックチェーンへのブロック書き込みとは別の概念です。

  1. 受信したトランザクションに含まれるInputからUTXO(未使用のOutput, Unspend Transaction Output)を特定する
  2. UTXOからscriptPubKeyとよばれるスクリプト(一般的には、送信者のBitcoinアドレスを含む)を取り出す
  3. InputからscriptSigとよばれるスクリプト(一般的には、送信者のデジタル署名とPublic Keyを含む)を取り出して、scriptPubKeyとscriptSigを実行する

 

トランザクションの基礎はこちら。

cryptocoin.hatenablog.com

 

トランザクションスクリプト P2PKHとP2PK

ScriptPubKeyとScriptSigとサラッと書きましたが、どちらもトランザクションスクリプトとよばれるBitcoin専用の簡易言語で作られたプログラムのことを指しています。

 

なぜ専用の言語が使われるかというと、複雑な処理を認めないことでBitcoinネットワークへの攻撃を防止するためです。例えば、このプログラムはチューリング不完全な言語として設計されており、プログラム内でループ処理が認められていません。そのため、無限ループ処理を組み込んだ、DDoS攻撃を防止することができます。

 

トランザクションスクリプトは5種類のスクリプトが認めれています。最も一般的なスクリプトはP2PKH (Pay-to-Public-Key-Hash)と呼ばれるスクリプトになります。

 

P2PKHはその名前の通り、Public KeyのHash、すなわちBitcoinアドレスを支払い先に指定したScriptのことを指します。これとは別にP2PK (Pay-to-Public-Key)というトランザクションスクリプトもあり、この場合はPublic Keyを受取人に指定して送信することになります。P2PKの方がシンプルな構成ですが、セキュリティの観点からP2PKHがメインで使われています(多分。ちょっとここのP2PKHがメジャーな理由は自信なし)。

 

P2PKHを使用した場合のトランザクション検証の動きを簡単にまとめると、以下のような流れになります。

前提 InputとOutputに含まれる情報

Input: 送信者のデジタル署名、送信者のPublic Key

Output: 送信者のBitcoinアドレス

フロー
  1. 送信者のPublic Keyが本物であることを確かめるために、InputのScriptに含まれるPulic KeyがBitcoinアドレス(=Pubilc Keyにハッシュをかけたもの、Outputに含まれる)と一致するかを検証
  2. 一致した場合は本人性の確認のために、デジタル署名(Inputに含まれる)を送信者のPublic Key (Inputに含まれる)で検証

 

ちなみに、P2PK(Pay-to-Public-Key)を使用した場合は、Output (UTXO) に送信者のPublic Keyを含んでいるため、2番のデジタル署名の検証のみで終了です。

 

トランザクションスクリプト Multi-SignatureとP2SH

複数人の承諾がないと、Bitcoinを使用できないようにしたい場面があります。例えば、経理担当者の決済の他に、経理部長の承認を必要とするというような事例が考えられます。この場合、Multi-SignatureまたはP2SHのいずれかのトランザクションスクリプトを利用することで、上記スキームを実現することができます。

 

Multi-Signature

Multi-Signatureはひとりの受取人に対して、複数のPublic Key (N個)を指定する種類のスクリプトです。これに対して、受取人側はこのトランザクションをInputとして送金に利用するタイミングで、このトランザクションで指定されたPublic Key(N個)に対応するデジタル署名(N個以下)を付与することでトランザクションを送金に利用することができるようになります。

 

例えば、P2PKを使用する場合は、経理担当者のPublic Keyだけを送信先に指定していたのに対して、Multi-Signatureを使用する場合は経理担当者と経理部長両方のPublic Keyを指定してもらうことになります。

 

この会社が受け取ったBitcoinを送金手段として使用したい場合は、経理担当者と経理部長両方のデジタル署名をInputに付与することで送金できるというわけです。

 

ただ、この方法の場合は、送信者に複数のPublic Keyを指定してもらう必要があるため、通常のWalletアプリを使用して送金することができません。また、仮に指定できたとしても送信者の手間が増えてしまうのであまり一般に使用されていません。そこで、この問題を解消すべく生まれたのが、P2SHです。

P2SH

P2SH (Pay-to-Script-Hash) は、「Multi-Signatureで送信者が指定していた複数のPublic Key」に対して、Hashをかけたものを受信者のアドレスとして利用するというものです。この方法を利用すると、送信者としては通常のBitcoinの送金同様、アドレスを指定して送るだけの作業になるため、送信者側の負担が軽減されます。

 

逆に受信者は、当該トランザクションを送金に利用する際は、デジタル署名だけでなく、アドレス作成に使用したPublic Keyなどの情報をInputに添付する必要があります。

 

トランザクションスクリプト OP_RETURN

ちなみにもうひとつ、OP_RETURNというトランザクションスクリプトもあります。これは、Payment以外の目的でのBitcoin利用を拡充するために導入されたスクリプトです。Bitcoinの各ノードは、未使用のアウトプット (UTXO) を素早く探すため、UTXOプールとよばれるメモリを保持しています。UTXOが新たに生まれるとUTXOプールに格納され、逆にUTXOがインプットに使用されるとUTXOプールから削除されるという動きをします。

 

しかし、Bitcoin送金以外の目的でトランザクションを使用する際には、送金額が0コインとなっている場合があります。その場合、UTXOは二度とインプットに使われることはないにもかかわらず、UTXOプールに格納されてしまいます。これが繰り返されるとUTXOプールが肥大化して、メモリを使い切ってしまうおそれがあります。

 

そこで、もしOutputにOP_RETURNというコードが含まれている場合は、UTXOをUTXOプールに格納しないという仕様に変更することで、UTXOプールの枯渇を防ぐことができるようになりました。ちなみに、もしOP_RETURNが記載されたUTXOがインプットに入ってきた場合は、検証無効となり送金が拒否されます。

 

まとめ

まとめてみると、なかなかなボリュームの記事になってしまいました。ほぼ、トランザクションスクリプトに関する記事になってしまったので、トランザクションスクリプトの種類を最後にまとめておきます。

 

代表的なトランザクションスクリプト

  • P2PKH
  • P2PK
  • Multi-Signature
  • P2SH
  • OP_RETURN

 

第2回はこちら

cryptocoin.hatenablog.com

 

インドネシアのお金と汚職にまつわるお話

しばらくインドネシアに暮らしていますが、財布がやけにパンパンになります。「財布 パンパン」で調べると、クレジットカードの大量保有や、ポイントカードの大量保有が一般的な原因としてあげられていますが、インドネシアやその他の新興国ではちょっと原因が異なるようです。

 

財布パンパンの原因その前に 汚職とお金

インドネシアの汚職撲滅委員会 (KPK) は、ジャカルタ市内のショッピングセンターで、違憲審査で便宜を図る目的で現金を受領したとして、憲法裁判所の判事を逮捕しました。

www.thejakartapost.com

 

このとき、日本円で約2,000万円近くの現金を受け渡していましたが、このときインドネシアの通貨であるルピアではなく、米ドルとシンガポールドルが使用されました。なぜルピアを使わなかったのでしょうか?

 

新興国の貨幣

新興国では一般的に高額紙幣が発行されていません。インドネシアの場合も、紙幣の最高額は100,000ルピア、日本円で約1,000円となっています。米ドルやシンガポールドルで支払われたのも、米ドルの1ドルはインドネシアルピアで約10,000ルピアになってしまい、現金の形で受け渡すには量が多すぎるからでした。

 

インフレが進む新興国では、一般的に紙幣の最高額がインドネシアのように実態に追いついていません。また最近では、2016年11月にインドがこれまで存在していた高額紙幣を廃止して話題になりました。

インド現地レポート 「高額紙幣の廃止」のナゼがわかる、モディ首相の戦略 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

目的のひとつとして、現金が汚職、人身売買などで使用されることを防ぐことを掲げており、現金を通したやりとりを極力削減し、金融機関を通した取引にシフトしていくことで、お金のやりとりを見える化していく狙いがあります。

 

インドネシアはインフレが進み、長年高額紙幣の発行が取りざたされてきましたが、今回発生した汚職事件のような現金の受け渡しがルピアで行われるのを防ぐためにも、しばらくの間は高額紙幣が発行されないことが予想されます。

 

ということで、新興国で財布がパンパンになるのは、高額紙幣が発行されていないためです。しかもATMによっては、最高紙幣の100,000ルピアではなく、50,000ルピアが登場することもあるし。。。

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新興国の金融課題

とはいえ、インフレが進み貨幣価値が希薄化する中で、何枚もの紙幣を日常生活で持つのは大変です。

 

そこでインドネシアでは、ジャカルタを中心にデビットカードや携帯電話会社の決済システムを使用した決済が急速に浸透しつつあります。例えば、大手のコンビニエンスストアであるIndomaretやalfamartなどでは、デビットカード決済を多くの店舗で受け入れていますし、ジャカルタであれば街中の多くのレストランではデビットカードによる決済が可能です。

 

 

しかし、そのインドネシアでも銀行口座を持っている人は約6,000万人にすぎません(2015年3月時点)。つまり、インドネシアの総人口の約75%の人は銀行口座を持っていないということになります。高額紙幣を廃止したインドは少し状況が異なり、口座開設率は99.7%まで達しているものの、口座預金残高が0円の割合が約75%となっており、アクティブに使っている割合はインドネシアとあまり変わらない率になっています。

 

この層にいかにリーチするかは、銀行やノンバンク各社にとって収益向上の大きなカギとなります。また、Bitcoinにとっても、実体経済での使用率向上のために、重要なターゲット層になります。

インド、銀行口座普及率が急増 貧困層向け政策奏功、99.7%に (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

en.tempo.co

 

Bitcoin使用率の拡充にはスピードが必要

これらの層は中間層以下の、いわゆる低所得者層であることが多く、金融機関がローンを提供するなどの収益源とみなすには、与信管理能力がまだまだ不足しており、口座開設に向けたインセンティブが不足している状態です。一方、海外に出稼ぎに出ている割合は高く、家族への送金のために廉価な送金システムへの需要は高まっています。

 

Bitcoinの拡大のためには、新興国経済が成長し、これらの低所得者層の所得が改善し、銀行側の口座開設意欲が高まる前に、Bitcoinの世界に取り込んでいくことが重要になります。

 

ひとつの手段として、新興国の取引所各社が全国展開している大手コンビニなどと提携することで、情報を広め、利用率を向上していくことが考えられます。実際、インドネシア最大手取引所のBitcoin.co.idは前述したIndomaretと提携して、Bitcoinの販売サービスを展開しています。

インドネシアのビットコイン取引所が大手コンビニと提携 | ビットコインニュースの BitBiteCoin

 

まとめ

少々強引なタイトルでしたが、新興国ではまだまだBitcoin拡充の余地があるものの、スピードを持って低所得者層を取り込んでいかないと、規模に勝る金融機関に勝てないよという警鐘です。

 

実際デビットカードは相当便利なので、コンビニなどの日常生活で使える程度のメリットではあまりBitcoinが伸びていく余地はないため、Bitcoin浸透のスピードを上げてシェアをあげ、決済手段のデファクトスタンダードにしていく動きが重要だと考えています。

 

ただ、中央の人間がいないBitcoin界では、音頭をとって進めていくのが難しく、歯がゆいところです。

海外居住者が投資を行う際の日本での課税

以前日本の証券会社を通して株式を売買することは、駐在員という身分では実質不可能ということをまとめました。

 

cryptocoin.hatenablog.com

 

しかし、海外の証券会社などを通した売買は、日本の法律は関係ありませんから当然認められます。しかし、海外の証券会社を通したとしても、場合によっては日本国内で課税が発生し、申告を忘れていると気づかぬうちに脱税扱いされてしまう可能性も。

 

今回は駐在員が海外の証券会社を利用する際の、日本での課税関係を整理します。

 

原則は非課税

海外駐在員の場合は原則としては、日本国内では非課税です。というのも、所得税法で国内に恒久的施設を有しない非居住者の場合は非課税と定められているためです。

No.1936 海外転勤中に株式を譲渡した場合|所得税|国税庁

 

ただ、恒久的施設を有しない非居住者の場合であっても、いくつかの条件にあてはまると国内での課税対象となりますが、通常の駐在員の場合はその条件に引っかかることはないでしょう(詳しくは上記リンクを参照)。

 

恒久的施設を有するとは

恒久的施設を有するとは、何かしらの事業を行う機能が国内にあるか、事業を代理して行う人がいることを言います。ただ、海外駐在員のような給与所得者の場合は、他に事業所得がない人の場合は、恒久的施設を有する人はいないでしょう。

No.2882 恒久的施設(PE)|源泉所得税|国税庁

 

まとめ 通常は非課税、ただ最後は税理士に確認を

以上のように、海外駐在員の場合は通常非課税となります。ただし、個別の租税条約で所得税法とは異なる記載があると、租税条約が優先されるので、最終的には税理士にご確認をお願いします。

 

また、日本での課税はともかく、国外での課税は当然気にする必要はありますのでご注意ください。

IS (Islamic State)とBitcoinとの関係

インドネシアマネーロンダリング対策ユニットがIS (Islamic State)がBitcoinを資金送金目的に使用していると発表しました。具体的には、最近ジャカルタで発生したテロの容疑者がBitcoinを使用して資金の送金、受領を行っていたと発表しています。

http://www.coindesk.com/indonesias-aml-agency-links-bitcoin-islamic-state-terrorism/

 

また、パリでのテロ事件の際にも、EUが仮想通貨を利用した送金に対する対策を行うと発表しており、ISが組織的にBitcoinを送金手段として利用している可能性が取りざたされています。

 

これまでの送金手段との比較

ISは中東地域、インドでの送金ではハワラというローカル送金ネットワークをこれまで使用してきました。ハワラというのは元々アラビア商人の間で生まれたもので、遠隔地間でもブローカー同士の信頼関係をもとにして迅速に送金するための手法です。

www.sinkan.jp

ちなみに英語記事ですが、下のWikipediaはかなり詳しい解説あり。

Hawala - Wikipedia

 

例えば、Aさんが離れた地域の家族Bに送金を行いたいとします。このときどうするかというと、まずAが住む地域のハワラブローカー(A')の元にAは赴きます。そして、家族Bに1万円を送金したい旨を告げます。A'はAから1万円を受取るとともにAから受取りのためのパスワードを聞き、B地域のブローカー(B')に電話やSMSでパスワードと受け渡し額(1万円)を告げます。

 

そのあとAさんはBさんに電話やSMSで、ブローカーB'の情報とパスワードを知らせます。BさんはブローカーB'のもとに赴きパスワードを告げることで、Aさんが送金した1万円を受領します。これで送金完了です。

 

この仕組みだとブローカーの台帳上は送金額とパスワード、そして送金者であるブローカーAの情報だけが残り、誰が送金して、誰が受け取ったかは記録上残りません。ちなみに、ブローカーA'とブローカーB'間ではどこかのタイミングで1万円を実際にやり取りしなくてはなりますが、これは一定期間ごとにお互いの残高を相殺する形で行われます。

 

このように見つかりたくない資金の送付にはもってこいのハワラネットワークですが、インドネシアやパリの場合は、ハワラネットワークが中東地域に比べると発展していないため、足のつきにくい送金手段としてBitcoinが使われるに至ったかと思われます。足がつきにくいとはいえ、テロで使用するような銃器などを購入するためにはどこかで現金化する必要があるうえ、Bitcoinの送金履歴は誰でも閲覧可能であることから、捜査自体はハワラネットワークを使用されるのに比べると簡単なのではないでしょうか。

 

ちなみにインドネシア当局は送金手段としてPaypalの名前もあげており、特にBitcoinへの規制を狙い撃ちしたものではなさそうです。

Bitcoinの経済学 需給関係の整理と2017年のBitcoin価格の予測

去年はBitcoinの価格が大きく上昇した年となりました。今年価格がどう変化するかを占う上で、Bitcoinの価格形成のメカニズムを整理しておくことは非常に重要です。

cryptocoin.hatenablog.com

 

今回は、Bitcoin価格に影響を与える需給関係を整理するとともに、それを踏まえて今年のBitcoin価格の上昇/下落を予想します。

 

Bitcoinの価格形成その前に 価格決定メカニズムのおさらい

中学校や高校の授業で習う内容かとは思いますが、経済学的に価格がどのようなプロセスで決定されるかを再確認しておきます。

 

経済学的にはモノの価格はそのモノに対する「需要」と「供給」のバランスで決定されます。例えば、Bitcoinに対する「需要」が上昇すればBitcoinの価格も上昇しますし、逆にBitcoinに対する「供給」が減少すれば、同様にそのモノの価格は上昇します。また、一般的に需要が上昇すればそれに合わせて供給量も増大します(逆もしかり)。

 

ただし、需要の増加に伴う供給量の動きはモノによって異なります。例えば、金を例に考えると、仮に工業製品で使用するための需要が急増したとしても、採掘量はほぼ一定量であるため供給量が増えることはありません。

 

それでは、Bitcoinに関する価格決定に関するメカニズムを確認するために、Bitcoinの需要と供給が何から成り立っているのかと、どのように調整されるかを確認していきます。

 

Bitcoinの価格形成メカニズム 供給

まずは供給から構造を確認していきます。なお、供給メカニズムについては一橋大学経済研究所の論文を参考にしています。

 

Bitcoinの供給量はシステム的に事前定義されています。具体的には、最大の供給量が2100万枚と定められており、マイナーによる採掘(トランザクションの承認行為)のたびに一定量のコインが採掘に成功したマイナーに支払われるという形態をとっています。通常のモノであれば、需要が増えれば工場で生産するなどして供給量を増やすのに対して、Bitcoinの供給量は需要に対して決まるのではなく、一定のアルゴリズムのもとで定期的(離散的)に増加していくことになります。

 

このことを、経済学的には需要量の変動に対して、供給曲線の価格弾力性が0であるといいます。供給曲線の価格弾力性が0の場合、価格のボラティリティ(変動量)が高くとなるという性質があります。下の図(上記論文 Figure3)で言うと、需要曲線(図D)がいかに変化したとしても、供給曲線(図S)は一定であるため、供給量(図L)が変化することはなく、価格(図P)で需要の増加分を吸収していることがわかります。

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通常のモノであれば需要の増加とともに供給量も増加するため、価格が大きく跳ね上がることが防がれますが、Bitcoinの場合は供給量が需要に応じて増加することはないため、需要増加のインパクトを価格のみで賄う必要があります。これは逆もしかりで、需要量が減少した場合は、Bitcoinの供給量を削減するということはできないため、価格が大きく下がることが予想されます。

 

このため、供給という側面から見ると、Bitcoinは需要が伸びている現在は大きく価格が上昇する可能性が高いが、他のCoinなどの代替物の登場や、法的規制によるBitcoinからの逃避が起こった途端に価格が急落するリスクをはらんでいると言えます。

 

よく供給量が決まっているため急激なインフレによる価値の希薄化が発生しないといわれるBitcoinですが、供給量が事前定義されているのは価格の暴落を防げない、諸刃の剣でもあるということです。

 

Bitcoinの価格形成メカニズム 需要

需要面では「誰が」Bitcoinを購入しているかを確認することが重要です。

 

誰が主に取引している?

「誰が」ということで重要になるのは、中国の存在です。Bitcoinの過去2年分の取引では中国の3取引所で全取引量の94%を占めており、中国でのBitcoinの需要がBitcoin価格に大きな影響を与えることがわかります。

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Bitcoinity.org

 

中国元の価格は市場ではなく、政府により統制されており、現在では世界で最も過大評価されている通貨であるとの声もあります。過大評価されているということは、価格下落の恐れがあるということであり、中国元の価格下落リスクを回避するために、中国からのマネーがBitcoinにさらに流れ込む可能性が高いと思われます。中国元の価格推移については、以下のニッセイ基礎研究所の分析でも同様の分析がなされています。

www.nli-research.co.jp

 

さらに、今年アメリカが利上げに踏み切った場合は、相対的に米ドルの魅力が上がることになるため、人民元の価格下落がさらに現実味を帯びるかと思われます。

 

中国政府の動きは?

2017年初頭に中国政府は、Bitcoin人民元の流出につながっている疑いがあるため今後調査を実施すると述べ、政府による介入を示唆しました。これに対して、中国の大手取引所である、BTC Chinaやokcoinなどは政府による規制強化を支持するとの声明を出しています。

www.coindesk.com

 

このため、一時的にはBitcoinの価格が下落することが想定され、事実一時14万円台をつけたBitcoinの価格は、1月21日現在10万円台まで下落しています。ただ、米ドル利上げ時には、規制を強化したとしても人民元からの逃避が進むことはさけられないことが予想されます。米ドル利上げ時にBitcoin価格がどこまで上昇するかは注目する必要があるでしょう。

 

1月22日追記

中国政府の規制強化に伴い、中国の3大取引所がレバレッジ取引を中止するとともに、取引手数料を徴収するようです。こうなってくると、取引量が急減する可能性もあるうえ、これ以上の規制強化を恐れて金ETFなどの別資産が逃避先として選ばれる可能性が高くなりました。 

cryptocoin.hatenablog.com

 

まとめ

本当は需要の箇所には中国以外の要因も書きたかったのですが、分析していくと予想以上に中国の影響が大きいことがわかったため、中国の動きに絞って分析しました。Bitcoin価格が爆進した2016年でしたが、2017年も需要の側面から主に米ドル利上げのタイミングで価格が伸びていくと思われます。

 

ちなみに供給の箇所で紹介した一橋大学経済研究所の論文は、供給曲線以外についても価格の変動が大きくなる要因をあげていて面白い内容であるため、そのうちこのブログでも紹介しようと思います。

Moneroのハードフォークが成功しました

Moneroのハードフォークが無事成功したようです。マーケットもこれを受けて、4.5%価格が上昇しています。

www.cryptocoinsnews.com

 

Moneroのハードフォークの内容

そもそもMoneroは、Bitcoinのプライバシーが著しく低いことへのアンチテーゼとして生まれたコインであり、主眼に置いているのは通貨利用の際の「プライバシー」です。Bitcoinを使用する場合は、ブロックチェーンを除けば誰でも取引内容を参照できますが、Moneroはいくつかの取引をミックスすることで、第三者がブロックチェーンを覗いた時に取引内容がわからないようにしています。なお、このミックス機能にはRing Confidential Transactions (RCT、 リング署名)と呼ばれるテクノロジーを使用しています。

 

今回のハードフォークでは、ミックス機能であるRCTが強制はされていなかったのを、デフォルトで有効にして強制するという対応です。これにより、すべての取引が匿名な状態で実行されることが担保されることになりました。

 

 

ただ、課題もあるようで、1トランザクションあたりの容量がこれまでの4KBから、6KBに変更となり、ブロックチェーンを保持する各ローカルマシンのハードディスク容量を食いつぶすおそれがでてきています。ちなみに、Bitcoinトランザクションサイズはたったの400バイトです。

 

まとめ

Moneroは2016年に急伸した暗号通貨であり、現在では時価総額が暗号通貨の世界で第5位に入るまでに成長しています。今回のハードフォーク成功により、ブラックマーケットでの使用は引き続き伸びていくことが想定されるため、コイン価格の上昇が見込まれます。

cryptocoin.hatenablog.com

 

以前、シルクロード(薬物取引などが行われた違法サイト)で、取引にBitcoinが使われたことがありましたが、最近では匿名性がより高いMoneroへのシフトが進んでいるようです。ただ、Moneroが意図するプライバシーの重要性自体は疑いようがないものであるため、犯罪に使われるコインというイメージをいかに払拭していくかは長期的には課題となると思います。

 

ちなみに、Moneroで使用されているリング署名は今回新しく発明されたものではなく、最近では企業内の内部通報に使われることも想定されています。どのような仕組みかというと、通報した人がその組織に所属しているが、どの人物であるか特定されるのを避けるために、その組織に所属する複数人の情報(公開鍵)を利用して署名をするという仕組みです。この方法を利用すれば、通報者を企業に特定されることで不利益な処遇を受けることを避けられるとともに、その企業が何かしらの不正行為を行ったことを伝えることができます。

https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2008/01/63_01pdf/f01.pdf

 

室町時代一揆の首謀者が特定されるのを避けるために、傘連判状を利用したのを思い出しますね(笑)

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Bitcoinは民主的?Bitcoinのガバナンスの危険性

Bitcoinは民主的な通貨であるとよばれていますが、本当にそうなのでしょうか。そもそも、民主的とはどのようなことを指して言っているのでしょうか。ニュースサイトなどを見ると、あまり深く考えずに「民主的」というワードを使用してしまっている気がしてなりません。

今回は「民主的な通貨」という意味について考えてみます。

 

まずはよく言われる「民主的」という意味から

そもそも「民主的」とはなんなのかという話をすると、Wikipediaによれば社会の構成員全員が権力を保持し、意思決定が合議により実現される社会形態をいうとのこと。

民主主義 - Wikipedia

 

これをBitcoinの世界に当てはめると、Bitcoin世界の構成員が皆権力を保持していて、意思決定に参加できるかどうかが民主的というためには考えなくてはならないポイントと言えそうです。

 

Bitcoin世界の構成員の権力状況

権力を保持しているということの定義は難しいですが、ここではBitcoinの世界に何かしらの変更を加える際に、意思決定に参加できることを権力を保持していることの定義としたいと思います。さて、権力の行方をさぐるためには、どのような構成員がいて、その構成員がどのように意思決定に参加しているかを分析する必要があります。

 

Bitcoinの構成員

Bitcoinの構成員が誰かと考えると、大きく2種類の人たちにわけられます。一つはBitcoinの利用者。ここにはBitcoinをただ利用するだけのLightweight Node(通常の利用者)から、マイナーのブロックの検証なども行うFull Node、そして採掘を行うマイナーが含まれます。もう一つはBitcoinの開発者。Bitcoinオープンソースソフトウェアの一つであるため、もちろん開発者グループが存在しています。

 

Bitcoinの変更プロセス

まず、誰かしらがBitcoinの仕組み変更の提案(Pull Request)をして、それを開発者グループのコアメンバーと呼ばれる人が承認(Merge)し、マイナーがその仕組みを受け入れることで仕組みの変更が行われます。仕組み変更の提案は誰でもできますが、コアメンバーかマイナーがアイデアを拒否すると仕組み変更は発動されないため、アメンバーとマイナーの選出が民主的なプロセスに則っているかが、Bitcoinを民主的ということができるかどうかのキーポイントだと言えます。ちなみに最近では Segwit導入が95%以上のマイナーの受け入れを条件に発動されましたが、マイナーの多くがまだ受け入れておらず、発動が延期されている状態です。

cryptocoin.hatenablog.com

 

アメンバーとマイナーの選出プロセス

さて、構成員とプロセスを整理したところで、権力を保持しているコアメンバーとマイナーの特徴を考えていきます。

 

まずコアメンバーについては、これは完全に民主的ではありません。今現在Bitcoinのコアメンバーは、 Bitcoin UnlimitedとBitcoin Coreに別れてしまっていますが、いずれにせよ民主的なプロセスで選出されたメンバーではなく、Bitcoinスタートからの中心メンバーであるにすぎません。

 

一方、マイナーはどうかというと、こちらについては資本力のあるものがその資本に応じて投票権を持つ一種の制限選挙状態になっています。現在では通常のPCではマイニングが全くできず、実質ASICという専用ハードウェアによる採掘が必須であることから、当然Lightweight Nodeの皆さんはマイナーに参加できません。

 

さらに、最近ではマイナーが中央集権化しているという意見もあり、投票権の寡占化が進んでいると言えます。

「ビットコインは中央集権化している」ハーバード大の研究者らが発表 - CoinPortal

 

結論と提言

ということで、我々Lightweight Node集団(=一般大衆)は、専制君主制同様何の権力も持っていない状態です(笑)。専制君主制と唯一異なる点は、一種の目安箱(徳川吉宗で有名なあれ)のような改善要望を出す権利が認められている点ですが、地方自治における解職請求権のような、コア開発者やマイナーの解職請求権は持ちあわせていない状態です。Bitcoinの世界は民主的というよりは、フランス革命前後にブルジョワジー(マイナー)が台頭してきて、王(コアメンバー)と貴族として取り立てられたブルジョワジー(マイナー)が両立している状態に近いといえます。

 

唯一、Lightweight Node集団に残された手段はBitcoinネットワークを見捨てて、現実の通貨や他のコインに乗り移ることです(現実世界における革命)。革命の発生はイコール、Bitcoin世界の終焉を意味するため、コアメンバー、マイナーとしてはなんとか防ぎたいインセンティブが働きます。そのため、そのような変更は行われづらいとは思いますが、開発者・マイナーと一般利用者の思惑が大きく異なる場合にはその問題が顕在化するおそれがあります。

 

より安定的な仕組みにするためには、少なくともFull Nodeには変更にあたって投票権を持たせることが考えられます。Full Nodeはマイナーが採掘したブロックの検証などを行うため、一定程度の計算量を求められますが、マイナーのコスト負担と比べるとたいしてことはないため、誰でも参加することができます。もちろん意識せずに変更後のバージョンにアップデートしていないNodeもいることから、投票にあたっては過去の取引状況などでアクティブ状況が一定程度上回った場合のみ投票権を持つというスキームが考えられます。

 

まとめ

少し批判的な論調でBitcoinを書きましたが、今までのところは開発者は誠意を持ってBitcoin界を引っ張っており、BIPという意見収集の仕組みにより充分なコンセンサスを取ったうえで、Bitcoinプログラムの変更を行っています。ただ、現在のガバナンス体制はコアメンバー内で意思決定が割れた場合や、一部のメンバーが辞職した場合に途端に綻びを見せる体制であるということは認識しておいたほうがいいでしょう。現在も、Bitcoin UnlimitedとBitcoin Core派に分裂しており、将来的にはBitcoinのハードフォークを引き起こす懸念もあります。

 

日本でのBitcoinの第1人者である大石さんは、ヴェンサス・カサーレスの言葉を引用して、「私たちは、私たちによる、私たちのための、私たちが管理する、初めての通貨を手にしたのだ。」と述べています。つまり、政府債務削減のために通貨価値の希薄化やインフレを発生させることが現実世界ではありますが、Bitcoinでは通貨発行量が固定で決まっているため、中央銀行による恣意的な介入を回避できるということをポイントにあげています。

 

そのような意味においては確かに既存通貨に比べると民主的なのかもしれませんが、通貨発行量自体もコア開発者とマイナーによるハードフォークによって変更可能だという点は注記しておく必要があるでしょう。

 

追記 2017年3月4日

実際にETC (Ethereum Classic)では開発者グループによる、発行量調整が行われました。

www.cryptocoinsnews.com

 

将来的にBitcoinを崩壊させるのは、テクノロジーそのものではなく、そのガバナンス体制にあるのかもしれません。

 

暗号通貨の上場ゴール問題とその規制

2016年に爆進したMoneroを調べようと以下のYoutubeの動画を見ました。見ていて何か似たようなものを見たことがあると思ったら、IPO(新規上場)前のベンチャー企業のロードショー(IPO承認後の投資家向け説明会)みたいだなと気づきました。MoneroがBitcoinのプラバシーに関する問題を克服したものであるというコインそのものの優位点の説明だけでなく、開発体制についても半分近くの時間を費やして説明している点が印象的です。


Monero Talk at Bitcoinference

 

今回は暗号通貨とIPOの類似点とその問題点を考え、そこに対する規制の現状、あるべき姿を考えてみたいと思います。ちなみにMoneroを例に書いていますが、Moneroをおとしめる意図はありません!

 

暗号通貨の上場ゴール問題

Moneroの歴史を簡単に振り返ると、thankful_for_todayというニックネームのメンバーが2014年4月に最初にコインを作り出しました。その後、thankful_for_todayが他メンバーの意見を聞かなくなったことから、現在のコア開発メンバーがMoneroをFolkして別のブロックチェーンを生み出したのが現在のMoneroです。

Moneroの開発メンバーは7名でしたが、それ例外にも25名のContributorや協力者がいて、Moneroのアップデートを続けています。

 

当然この中心メンバーはMoneroにほぼ全力を傾けているため、開発を続けるには資金が必要になります。資金源は基本的には募金で賄われているようですが、今後も開発を続けるには、継続的にMoneroの価値をあげて、コイン(≒株式)を公開市場で取引して現在保持しているMoneroを売却するなどして利益をあげる必要があります。もちろん、個人間でも暗号通貨の取引はできますが、株式同様公開市場での取引の方がはるかに簡単に取引のマッチングが可能です。

 

ベンチャー企業の上場の場合には、上場前に引受証券会社や取引所による審査があります。近年は上場ラッシュで審査があまく、以下のような事件も起きていますが、基本的には上場不適合な企業は上場できない仕組みができあがっています(例えば、詐欺を働いているような犯罪企業や、ネズミ講企業など)。

diamond.jp

 

さらに、当然ながらベンチャー企業の場合は本業によって収益をあげてそれを運営資金とするということができますが、暗号通貨の場合には自分の開発した通貨を他の通貨(円、ドルだけでなく、Bitcoinなども含む)に変換することで"上場ゴール"する以外に収益化の方法がないため、詐欺行為や体制が不十分な状態での取引所上場に対するインセンティブが働いてしまいます。

 

それに対して、第三者が最後の歯止めとしての役割を果たせているかというと、暗号通貨の上場の場合には、当然引受証券会社はなく、取引所の審査も法律で縛られているわけではないので、コイン利用者にその利用可否の審査が委ねられている状態になってしまっています。

 

日本における暗号通貨規制の現状

個人的には、審査を個人以外の第三者が行った上で公開市場に流通させることで、コイン利用者が詐欺に遭う可能性を減らしてあげることが、暗号通貨の普及にあたっては重要になると考えています。

 

日本でその規制を主に担うことになるのは、資金決済法及び監督官庁である金融庁です。

www.itmedia.co.jp

仮想通貨に対する改正資金決済法等の動向と課題|2016年7月号|金融ITフォーカス|刊行物|NRI Financial Solutions

 

2016年5月の法改正(6月4日公布、1年以内に施行予定)により、仮想通貨の取引所が登録制になり、原則として登録していない取引所は仮想通貨の取引が禁止されることになりました。またこの法律の制定をうけて、金融庁が取引所規制の内閣府令の案を提出しており、ガイドラインの中で以下のように述べています。

(I-1-2 仮想通貨交換業の該当性及び取り扱う仮想通貨の適切性の判断基準)当局は、仮想通貨交換業に係る取引の適切性及び取り扱う仮想通貨の適切 性等について、申請者に対して詳細に説明を求めるとともに、認定資金決済事業者協会の 公表する情報等を参考としつつ、登録の申請の審査等を実施する
つまり、認定資金決済事業者協会の情報をもとにして、取引所の登録申請時に取り扱っている仮想通貨の妥当性を金融庁が審査したうえで、取引所としての登録を認めるということです。当然登録された後も、金融庁による定期的な監査の中で取り扱い対象通貨に対する監査も含まれることが予想されることから、日本国内においては詐欺行為を目的とした暗号通貨の流通に一定の歯止めがかかることが予想されます。
 
このことは、一部のアナーキーな界隈では政府による介入と批判的に受け止められていますが、私としては暗号通貨を一般に広めるうえで重要なポイントになるかと思います。利用者のコインへの知識、ITへの知識に関わらず、あるレベルまでは安全性を保証することで(もちろん完全な保証はIPO同様無理ですが)、暗号通貨の裾野を広げることができると考えているからです。
 

まとめ

以上のように、これまで無秩序だった暗号通貨の取引に、2016年は一定の規制が加えられた年でした。今年中には施行になるので、認定資金決済事業者協会がどのような暗号通貨を取引対象として適切と判断するかは、注目していきたいと思います。
 
ちなみにMoneroについては、coincheckやKraken(2017年1月3日から)など限られた取引所のみで取引されていますが、取引内容を第三者が見れないことが強調されたコインであるため、取引所の取り扱いコインとして適切ではないと判断される可能性が高いのではないかと考えています。 

Bitcoinを安全に使うための基礎知識

Bitcoinの安全性を理解するため、今回はどのような場合にBitcoinを盗まれてしまうのかを、トランザクションの観点から説明していきたいと思います。

 

なお、今回の記事は以下の記事の知識+公開鍵暗号の概要理解を前提としています。

cryptocoin.hatenablog.com

より詳しいトランザクションの解説はこちら。

cryptocoin.hatenablog.com

 

上記記事で述べた通り、トランザクションは「受取人のBitcoinアドレス」、「送金額」、「送金者の情報」という3つの情報を組み合わせることで成り立っていました。

 

つまり、「受取人のBitcoinアドレス」と「送金額」に対して、「送金者の持つ秘密鍵で署名する」ことで、送金者以外の第三者が、送金者になりすまして送金をしていないということを証明しています。

 

ここから以下の疑問が生まれます。

  1. 秘密鍵が送金者のものであることをどのように証明しているのか」
  2. そもそも秘密鍵が漏れ出してしまったときの対処法はあるのか」

 

秘密鍵が送金者のものであることをどのように証明しているのか

Bitcoinで使用されている公開鍵暗号方式は、秘密鍵と公開鍵がペアになっています。この暗号方式には面白い点があり、「公開鍵で情報を”暗号化”すると、対応する秘密鍵のみで解読できる」という点と、「秘密鍵で”署名”すると、対応する公開鍵でのみその秘密鍵で署名されたことがわかる」という、暗号化と電子署名の両面を実現することができる仕組みになっています。

 

Bitcoin電子署名に即して考えると、送金者が秘密鍵を利用して署名した送金情報は、送金者の公開鍵でしか検証できないから、送金者の公開鍵で検証できた場合には、この送金情報は間違いなく送金者によって生み出されたものだということができます。

 

と、ここで話が終われば簡単なのですが、まだ話は続きます。送金者の「公開鍵」が送金者の「秘密鍵」のペアであることを、どのように証明できるのでしょうか?

 

例えば悪意を持った第三者が「これが送金者の公開鍵だから使ってくれ」といって、その人の秘密鍵で署名した送金情報の検証に使用させた場合、送金情報を偽装することができてしまいます。

 

従来は、この公開鍵の配布には、PKIと呼ばれる中央集権的な仕組みを利用していました。中央集権的なPKIとよばれる機関に公開鍵の情報を登録して、PKIがその公開鍵が本当に送信者のものであることを証明していました。

 

しかし、Bitcoinにこの仕組みを導入してしまうと、分散型の仕組みに中央集権的な混在することになってしまい、PKIが悪意を持った場合にBitcoinの仕組みが崩壊してしまいます。言い換えると、PKIが単一障害点になってしまいます。

 

この問題の解決のため、送金時に送付されてきた公開鍵が、前回の取引でBitcoinを受け取ったBitcoinアドレス(=公開鍵にハッシュ関数をかけたもの)と一致しているかを検証しています。トランザクションを受け取ったノードは、送付されてきた公開鍵にハッシュ関数をかけて送信者のBitcoinアドレスと一致することを検証します。こうすることで、偽の公開鍵を利用した不正送金を防いでいます。

 

そもそも秘密鍵が漏れ出してしまったときの対処法はあるのか

結論から書くと、秘密鍵が漏れ出してしまった場合の対応方法はありません。たとえば、2013年にはBitcoin秘密鍵の情報を保持しているQRコードをテレビのキャスターが放送してしまい、Bitcoinを盗まれてしまうという事態が発生しています。

gigazine.net

 

これを防ぐには、一般的には秘密鍵を無効化するということが考えられます。前述したPKIを使用している場合には、PKI上でCRL (Certificate Revokation List)とよばれる無効となった公開鍵を管理する仕組みがあるため、PKIに申請を行うことで秘密鍵の無効化が可能です。

 

翻ってBitcoinを見てみると、PKIのような中央集権的な仕組みはないためこの手法をとることはできません。考えられるのは、CRLをブロックチェーンに組み込んでしまうことですが、無効化するアドレスに蓄積されているBitcoinをどのように取り扱うかを考えると、「漏えいしたアドレスから急いで別のアドレスに退避する」という現在の方法が、結局のところ理にかなっているかと考えています。

 

以下のサイトでは、ブロックチェーンにおけるPKIを提唱していますが、以上のロジックから実現は難しいかと、私は考えています。

www.cybertrust.ne.jp

 

まとめ

秘密鍵が漏えいしない限りは、トランザクションのなりすましは不可能であることがわかりました。そのため、

  • 秘密鍵を漏えいしないための管理
  • 漏えいした場合にすぐに送金できるためのバックアップアドレスの用意

の2点がBitcoinをセキュアに使うためには重要になってきます。相場は上昇していますが、秘密鍵が漏えいしたら利益もふっとんでしまうので、みなさん秘密鍵の管理はぬかりなく!

リアル通貨に比べた暗号通貨利用の2つのメリット

Bitcoinの相場が2017年も引き続き上昇し、ついに1000ドルの壁を突破しました。Bitcoinは投資目的で語られることも多いですが、実際の取引でもいくつかの点でリアルな通貨(円、ドルなど、Flat Currency)や送金手段に比べて優れている点があります。

今回は、Bitcoinに代表される暗号通貨の実取引上のメリットをまとめてみました。

 

1) セキュアな取引

ご存知の通り、現在最も一般的なオンライン取引での決済手段は、クレジットカードです。しかし、クレジットカードを利用した取引の場合には、クレジットカード番号、セキュリティコード(CVVなどと呼ばれている3桁のコード)など秘密情報をインターネットを経由して送信しなければいけないという危険性があります。

 

通常、ネットワークレベルの暗号化の仕組みである、SSLなどを使用して取引の安全性を担保していますが、SSL脆弱性がある場合や情報送信後に送信先から流出した場合には、自分のクレジットカードを使用されてしまうおそれがあります。事実送信先から情報が流出した事件は毎年起きており、2016年に発生した以下の事件ではセキュリティコードも含めての情報流出が疑われています。

www.itmedia.co.jp

 

一方、Bitcoinなどの暗号通貨を使用すると、Bitcoinの流出につながる"秘密情報"を送らなくても取引を行うことができます。

簡単に理由を説明すると、Bitcoinトランザクションには「送信者の情報」、「送信額」、「送信先」という大きく3種類の情報が含まれており、「送信者の情報」はセキュリティ用語では署名と呼ばれています。その送信者が"署名"を行ったかどうかは世界中の誰もが検証できますが、署名自体は送信者のパソコン内部で行われるので、署名に必要な秘密情報を外部に発信する必要がありません。

 

Bitcoinトランザクションの関する説明 

cryptocoin.hatenablog.com

 

ちなみにこの署名に公開鍵暗号方式とう暗号理論を使用しているため、一般にBitcoinなどの仮想通貨一般は暗号通貨(Crypto-Currency)と呼ばれています。よく勘違いされてますが、「暗号によりプライバシーが保護されるから暗号通貨と呼ばれている」わけではありません(むしろBitcoinは全トランザクション情報が公開される仕組みになっているため、非常に透明度の高い仕組みになっています)。ちなみに公開鍵暗号自体はIT系の技術者なら誰でも知っているものであり、Bitcoinによる発明ではありません。

 

2) すばやく安価な送金

日本国内での送金の場合は日銀内の当座預金残高を銀行間で付け替えるだけで送金が完了するため、即座にそして安価に送金が完了します。しかし、国際送金の場合は数日かかってしまう場合が一般的です。例えば、楽天銀行を例に挙げると、送金完了までに送金を実施した日+1〜3日時間がかかってしまいます。

 

これは、国際送金の場合には相手行に送るまでにいくつかの金融機関(コルレス口座)を中継するパターンが一般的であるためです。これにより、送金完了までには時間がかかってしまうだけでなく、最悪途中の中継銀行で資金が止まってしまうことすらありえます。

RTGS(即時グロス決済)とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan

コルレスバンク - Wikipedia

 

これに対して、Bitcoinを使用すると約10分で送金が完了できるうえ、送金がキャンセルされてしまうリスクを受信者が負担する場合は、即座にBitcoinの送金が完了します (zero-confirmation transactions)。また、手数料についてもほとんど無視できる金額で送金が可能です。仮に10分待つとしても、通常の国際送金に比べて圧倒的に早く、そして安く送金ができるため、主に新興国での需要が高まっています。

 

ただ現在は送金されたBitcoinをそのまま店頭で使用することがほぼできないため、実際にBitcoinを送金してから現地で使えるようになるまでには、1日から2日程度かかると想定されます。また、Bitcoinから現金に変換する過程で仲介手数料を取られるケースが多いため、送金手数料も数百円ほどかかってしまうのが現状のようです。例えば、取引所サービスを運営しているbitFlyerの場合は、216円から756円の出金手数料を課しています(2017年1月現在)

 

bitflyer.jp

 

今後、店頭でもBitcoinでの支払いを認める企業が増えた場合には、この問題も解決されていくと想定されますが、そうなるにはまだまだ時間がかかりそうです。何より、Bitcoinを法定通貨として認めている国はごくわずかであることから、企業にとっては支払い手段として認めることは大きなリスクとなっています。店頭での支払いを本格的に普及させていくには、いくつかの判例を通してBitcoinの法的位置付けが明確になっていくことが必要かと思います。

 

ちなみにですが、日本国内でもBitcoinの支払いを認めるお店は徐々にではありますが増えてきているようです。

日本のビットコインが使えるお店(ビットコイン決済対応店舗) | Bitcoin日本語情報サイト

 

3)まとめ

Bitcoinにはセキュアな取引とすばやく安価な送金手段という二つの実際上のメリットがあります。そのほかにも中央機関による金融操作や、預金封鎖などを通した資産の収奪リスクが低いことは、新興国などの政情不安定な国で生活するにあたってはメリットになります。

 

しかしながら、政情不安定な国が多いアフリカ地域では、インターネットの普及率も依然として30%を下回っています。そのような国でのインターネット普及が今後進むかどうかは、Bitcoinが投資だけでなく、実生活に根付いたものとして普及するかどうかの大きな決め手のひとつといえるでしょう。

www.garbagenews.net

 

 

参考サイト

www.coindesk.com